日本イーライリリーの並木千尋氏

 抗アミロイドβ(Aβ)抗体solanezumab(SLZ)のアルツハイマー型認知症(AD)を対象とした国際共同第3相試験であるEXPEDITION(EXP)1および2について、日本人集団の解析結果を含めた成績が報告された。両試験において主要評価項目は達成できなかったが、その併合データを用いた副次解析から、軽度AD患者でSLZによる有意な認知機能低下の進行抑制効果が認められた。日本人集団でも結果はほぼ同様だった。11月10日まで長野県松本市で開催されていた第32回日本認知症学会で、日本イーライリリーの並木千尋氏が発表した。

 SLZはアミロイドβ蛋白の13〜28番目のアミノ酸残基に特異的に結合するヒト型の抗Aβモノクローナル抗体。点滴静注により、末梢血中のAβと結合する。中枢神経組織で産生されたAβは末梢血中にも放出され、中枢神経組織との間で平衡状態にあるが、血中のAβがSLZに捕捉されることで平衡状態が崩れ、中枢神経組織から末梢血中にAβがくみ出される形になる。その結果、中枢神経組織でのAβ濃度の低下、大脳内におけるアミロイド線維の形成抑制という機序で、ADの進行抑制効果が期待されている。

 EXP1は北南米と日本、EXP2はEUと日本を含めたアジアを主な対象に、国際共同第3相プラセボ対照二重盲検比較試験として、計16カ国で行われた。対象はNINCDS-ADRDAの診断基準を満たす55歳以上のAD患者で、認知機能の重症度はMMSEで16〜26点と軽度から中等度の症例。被験者をSLZ(400mg)群またはプラセボ群に1対1で割り付け、それぞれ4週間に1回、18カ月(80週)間の点滴静脈内投与を行った。EXP1の登録患者はSLZ群、プラセボ群ともに506例、平均年齢74.8歳、EXP2はSLZ群521例、プラセボ群519例、平均年齢72.5歳だった。

 両試験の当初の主要評価項目は、ADAS-Cog11による認知機能とADCS-ADLによる日常生活機能(ADL)の2点。だがEXP1をキーオープンしたところ、そのどちらも有意差を認めなかった。一方、事前に規定されていた副次解析においてMMSEが20〜26点と軽度のAD患者では、SLZ群で有意な認知機能の低下抑制効果を認めた(P=0.008)。そのため、データベースをロックキーオープンしていなかったEXP2では、主要評価項目を「軽度のADを対象としたADAS-Cog14による認知機能」に変更した。

 残念ながらEXP2でも主要評価項目は達成できなかったが、事前に規定されていた副次解析として両試験の併合データを用い、有効性については軽度のADを対象に、また安全性については全症例を対象に、さらに検討を行った。

 軽度ADのADAS-Cog14スコアの変化量は、40週でSLZ群が有意に低値となり(P=0.024)、以降80週まで有意差が認められた(80週時、P=0.001)。変化量の差から、SLZ群では80週時点において、認知機能低下が34%抑制されたと見積もられた。またADLについて、ADCS-ADLによる解析では有意差を認めなかったが、より高度な機能を評価するADCS-instrumental ADLによる解析では、SLZ群で有意な進行抑制効果を認めた(80週時、P=0.045)。80週時点での進行抑制効果は18%と見積もられた。

 日本人集団(EXP1と2あわせてSLZ群100例、プラセボ群81例、平均年齢73.7歳)でも傾向は同様だった。日本人の併合データのADAS-Cog14スコアの変化量は、40週以降SLZ群が有意に低値となり(P=0.023)、以降80週まで有意差が認められた(80週時、P=0.032)。一方、ADCS-ADLでは、EXP1においてSLZ群の方が追跡期間を通じ悪化傾向にあった。これは、骨折、感染症、クモ膜下出血など、被験者のADLを大きく損なう有害事象がSLZ群で多かったことが大きな要因という。EXP2では同様な有害事象の増加は見られなかったことから、SLZが原因である可能性は低いと考えられた。日本人の併合データのADCS-ADLでは、2群間に有意差はなかった。

 全ての患者を対象とした安全性の解析において、アミロイド関連の画像上の異常所見に含まれる脳内浮腫(ARIA-E)の出現率は、プラセボ群が約0.5%、SLZ群が約1%で、有意差はなかった。またARIA-H(脳の微小出血)の出現率も、群間に有意差はなかった。有害事象の出現率や内容も、両群でほぼ同等だった。

 これらの結果から並木氏は、「有効性については、軽度のADにおいてSLZの有用性が示唆された。バイオマーカーの検討によって、標的であるAβに対する生体内でのSLZの作用は確認できたが、タウ蛋白やアミロイドPETなどの検討では、例数も少なかったため有意な効果を示すことができなかった」とまとめた。

 なお、今回の試験で主要評価項目を達成できなかったことから、臨床症状に加え、アミロイドPETにより脳内にAβの集積が確認できた軽度AD患者に対象を限定した、新たな国際共同第3相試験が開始された。