川崎幸クリニック(川崎市幸区)内科の杉山孝博氏

 認知症を介護する家族にとっての最大の課題は、その「異常な言動」を理解することの難しさにある。だがそれは必ずしも異常なものではなく、同じ状況にあれば誰もが行う言動と考えることができるという。11月8日から10日まで長野県松本市で開催されていた日本認知症学会(JSDR2013)で、川崎幸クリニック(川崎市幸区)内科の杉山孝博氏は、自らの豊富な臨床経験から編み出した「認知症をよく理解するための9大法則・1原則」に基づいた「介護者が認知症を理解するためのポイント」を解説した。

 杉山氏は、認知症を「知的機能の低下によってもたらされる生活障害」と捉える。日常生活でどのような障害があり、どう対応すればよいかを知ることで家族の負担は激減するという。「9大法則・1原則」は、それを分かりやすくまとめたものだ。

 まず紹介した第1法則は「記憶障害に関する法則」。これを同氏は、「記銘力低下」「全体記憶の障害」「記憶の逆行性喪失」の3つに分類する。

 人間は自分が体験したことを記憶し、すぐ思い出すことができる。この記銘力が認知症では大幅に低下する。認知症の人が何回も同じことを話すのは、本人は前回話した直後にその事実を忘れてしまい、毎回初めて知ったこととして話すためだ。何回も同じことを聞かされる家族はうんざりして話を遮ってしまうが、認知症の人は「私はまだこのことは誰にも話してない。どうして家族は何度も聞いたと嘘をつくのか」と猜疑心を持つ。家族が「この人はいつも初めて知ったこととして話している」との理解に基づいて対応することで、認知症の人の心理も安定する。

 「全体記憶の障害」とは、例えばその日に行ったことをまるごと忘れてしまうことを指す。デイサービスに積極的に参加していたことを知った家族が、その日の夜に「デイサービスで何をしたの」と聞いても、デイサービスに行ったこと自体を本人は忘れてしまっていることがある。その場合、作った物を見せながら念を押したりすると、「今日は1日中家にいた。していないことをしたと思い込ませようとしているのか」と不信感を募らせてしまう。「忘れてしまっていても、本人がその時に楽しんだことで十分」と納得することが大切という。

 また、食事をしたこと自体を忘れることも多い。本人は食べてないと強く思っているので、「さっき食べました」と説得されると逆に混乱させることに。この場合、「ちょっと待ってて」と言って握り飯やバナナのような軽食を出すことで、本人は納得する。これでは足りないというときは、1食分出してしまってもよいという。過食は一時的な現象で、そのときは本人の活動性も高まっているため、過食によって下痢をしたり、どんどん太ってしまうといったことはまれとのことだ。

 夜に台所に来て食べ物を探し回るのであれば、見つけやすいところに簡単な食べ物を出しておく。少しでも食べれば本人は満足して就寝し、長く探し回ることはない。このように食べさせてしまってもおおむね大丈夫と家族が理解することで、対応は大幅に楽になる。もちろん糖尿病である場合は血糖コントロールの問題があるが、これも認知症の進行度や予想される余命を踏まえて柔軟に判断し、杓子定規な食事制限は避ける。

 「記憶の逆行性喪失」とは、本人の記憶が現在から過去のある時期までの間、失われることを指す。認知症の男性が鞄を持って「今から会社に行ってくる」と出かけようとしたなら、本人の認識は現役時代に戻っているということ。「もう10年以上も前に定年したでしょう」と言うと「なぜだます」とけんか腰になってしまう。このような場合は、「今日は“国鉄”が事故で止まっているので、会社から臨時休業にすると電話がありましたよ」といった対応で乗り切るようにする。自分の娘や息子がまだ幼少だった時代に戻ってしまうことも多く、長い期間さかのぼって記憶が喪失してしまうことを踏まえて話を合わせることが肝心とのことだ。

 第2法則は「症状の出現頻度に関する法則」。より身近な介護者に対して認知症の症状がより強く出るということで、これは幼い子供が母親に対して甘えているのと同じで、最も信頼している人に症状を強く出してしまうと解釈する。

 これ以外の法則の詳細は他稿に譲るが、このように理解することで、認知症の人の異常な言動は必ずしも異常なものではなく、同じ状況になれば健常者でも行う言動にすぎないことが分かるという。

 認知症の臨床では、本人や家族の支援をきめ細かく行うことが最も重要であり、「これらの法則をまとめた小冊子を読んでもらうことで、家族の表情もずっと明るくなる」と杉山氏は強調し、講演を終えた。