東京大学神経病理学の岩坪威氏

 近年、アルツハイマー病(AD)の病態を直接的に反映し、その進行を発症早期から把握できる画像所見やバイオマーカーを用いた客観的評価法の確立が待望されている。11月8日に長野県松本市で始まった第32回日本認知症学会で東京大学神経病理学の岩坪威氏は、2007年にスタートしたJ-ADNIの成果を紹介するとともに、より早期のpreclinical ADと定義される患者を対象に加えて今年から新たに始まったJ-ADNI2の概要を紹介した。

 認知症の治療に現在使われているコリンエステラーゼ阻害薬などでは、ADの進行を食い止めることは難しい。ADの発症メカニズムに即した疾患修飾薬と呼ばれる薬剤が多く開発されているが、明らかな臨床症状があり認知症と診断できるADを対象にした治験では、症状の進行抑制効果が得られないことが分かってきた。

 そこで米国では2005年から、軽度認知障害(MCI)や早期のADを健常者と比較し、ADの進行を早期から把握できる検査指標を開発しようというプロジェクト「ANDI」(AD Neuroimaging Initiative)が開始された。欧州やオーストラリアでも同様なプロジェクトが始まったことから、我が国でも2007年にJ-ADNIが組織され、翌年から被験者の登録を始めた。

 目標としていた人数(計600人)をほぼ満たす被験者(早期AD患者121人、後期MCI 239人、健常者154人の計545人)が登録され、MRIとPET(FDG-PET、可能ならアミロイドPET)による画像所見、アポE遺伝子型、脳脊髄液のアミロイドβ定量、臨床・心理検査所見などを取得した後に2〜3年追跡し、これら検査所見と認知機能の低下との関連を検討した。

 参加施設は国立長寿医療研究センターや大学病院など全国の38の医療機関。来年春までには全ての登録被験者の追跡が終了し、多様な検討結果が順次発表される予定だ。今回、岩坪氏は、MRIによる脳容積の正確な測定の際に必要となる画像の歪みの補正法について紹介。海馬や嗅内皮質容積を指標に新薬の治験を行う場合、この歪み補正法を用いることで必要患者数を最大40%程度、少なくできるという。それだけ治験のコスト削減が期待できるわけだ。

 さらに2013年から、MCIよりも前段階にあるpreclinical ADも対象に含めたJ-ADNI2が開始される。これは、(1)preclinical ADを対象にしたアミロイドを指標とするスクリーニングと長期の追跡、(2)早期/後期MCIを対象にした米国のADNI2と互換性のあるプロトコールによる追跡――の2つから成る。

 preclinical ADとは、脳内にアミロイドβの蓄積が認められるものの臨床的にはADを発症していない状態を指し、健常高齢者の4〜5人に1人が該当するという。preclinical ADからAD型認知症への移行率やリスクとなる因子を明らかにするため、150人を3年間追跡する計画だが、150人の登録のためには700人程度にアミロイドPET検査を実施してスクリーニングする必要がある。またMCIについては、早期100人、後期100人を登録して3年間追跡するが、3テスラのMRI検査、アミロイドPET、脳脊髄液採取などを必須とするなど、評価項目を増やした。

 このような専門的な検査が全国の参加施設で行えるようになれば、preclinical ADやMCIを対象とした疾患修飾薬の大規模臨床試験にも対応可能となる。既に欧米では、家族性ADの家系やpreclinical ADを対象に抗アミロイドβ薬の投与でADの発症予防が可能かを検討する臨床試験が複数スタートしているという。

 「J-ADNIでも、アミロイドPETで陽性所見があるMCIは、追跡中にADへ移行する率が高かった。このことからアミロイドPET陽性所見はMCIからのAD発症を予測する指標になるといえる。J-ADNI2ではMCIよりも前段階にあるpreclinical ADも含めて長期追跡することで、より早期からのAD発症の予測因子を具体的に明らかにしたい」と岩坪氏は抱負を語った。