第67回日本癌学会学術総会では、近年の癌治療法開発に不可欠な産学連携に伴う問題である「利益相反」について、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本癌学会の3学会合同の特別企画シンポジウム「がん臨床研究の利益相反への取り組みに向けて」が開催された。シンポジウムでは、各学会が利益相反についてどのように取り組んでいるのかが発表された。

 利益相反とは、外部との経済的な利益関係などにより、公正かつ適正な判断が損なわれる、または損なわれるのではないかと第三者か懸念が表明されかねない事態のこと。

 シンポジウムではまず、06年3月発表の「臨床研究の利益相反ポリシー策定に関するガイドライン」を策定した文部科学省「臨床研究の倫理と利益相反に関する検討班」の班長で徳島大学の曽根三郎氏が、臨床研究における利益相反とは何かを総括した。

 今年3月には、厚生労働省が「厚生労働科学研究における利益相反の管理に関する指針」をとりまとめ、2010年度までに利益相反委員会が設置されていないか、外部の利益層反委員会への委託がされていない場合、厚生労働省科学研究費補助金が交付されなくなることが決まった。こうしたことから、研究機関における利益相反に関するマネジメントが急務になっている。

 曽根氏は、「癌治療法の開発のための資金源は産学連携によるところが大きく、利益相反を回避するために企業が臨床研究への寄付などを抑えることになれば臨床研究は進まない。利益相反状態は必然的に起こるもので、必ずしも利益相反状態に問題があるのではなない。いかに公正性や適正性を疑われるような深刻な利益相反の状態を発生させないかという管理の仕方自体が大切。だからこそ、研究者には利益相反についてより理解を深めてもらう必要がある」と話した。

 一方、大学や学会などの関係機関は、「ガイドラインに沿って適正なマネジメントを行うことが重要。特に学会においては、成果発表の際の透明性や中立性を担保できる運用システムの構築が必要だ」とした。

 これらの背景から、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本癌学会の3学会は、利益相反への取り組みを開始している。3学会の利益相反への取り組みの基本となるのは、日本癌治療学会と日本臨床腫瘍学会が共同で策定し、日本癌学会が採択した「がん臨床試験の利益相反に関する指針」(http://jsco.umin.ac.jp/outline/COI-sisin.pdf)だ。

 日本癌治療学会では、指針の策定のため、倫理委員会の下にワーキンググループを設置して施行細則を策定。また、運用をスムーズにするため、Q&Aも公表した。利益相反の申告が必要なのは、学会の役員、学会機関誌への投稿者、総会発表の筆頭著者。理事長や理事、監事、委員長、総会会長・副会長といった役職者には、一親等内の親族も含めた報告を義務づけている。

 さらに指針に基づき、学会役員などを対象に癌の臨床研究の利益相反状況に関する審査を今年度から開始した。旭川医科大学の高後裕氏は、「今年7月までに140人の審査を終了した」という。

 また10月30日から11月1日に行われた今年の総会で、発表演題に関する利益相反の開示の義務づけを開始。高後氏は、「基本的には、自己申告により利益相反状態の開示を求めるもの。最初の2年間を試行期間として、運用上の問題点などを集約し、Q&Aや施行細則の変更を行いながら、迅速な対応を目指したい」と話した。

 日本癌治療学会と共同で指針を策定した日本臨床腫瘍学会でも、規定やQ&A(http: //jsmo.umin.jp/pdf/riekisohankitei_qa200406.pdf)を独自に策定し、今年4月から実質的な運用を始めている。

 同学会の開示制度は2段階。一般会員に対しては、学会発表の際に、発表者と試験責任医師が利益層反事項の公開を義務づけられた。またこの情報は、発表時に示される。一方、理事長や理事、各種委員会委員といった役職者の場合、生計を一にする親族に関する情報なども含め、毎年詳細な利益相反関連事項の提出を義務づけた。

 九州大学の中西洋一氏は、「今年10月には新ガイドライン策定委員の利益相反情報を開示し、委員就任の適格性を協議した。利益相反に関する情報を開示することにより、研究者のこれまでの『利益相反についての認識不足』をなくすことができるだろう。また、情報開示により深刻な利益相反状態に陥ることへの心理的予防効果も期待できる」とする。

 さらに、「利益相反があるから即排除するというのは間違い。産学連携においては、バイアスは必ずあるもの。利益相反情報の開示により、ある程度の利益相反があっても臨床研究に社会的な意義があり、安全性に問題がないということを、一般の人たちにもアピールしていかなければならないと考えている」と語った。

 一方、日本癌学会では、日本癌治療学会と日本臨床腫瘍学会が策定した指針を採択し、現在細則を検討中だ。

 東京医科歯科大学の稲沢譲治氏は、「細則では、学術集会での利益相反事項の届け出を義務化する予定。対象となるのは、筆頭発表者で、過去1年間の利益層反事項の有無を発表スライドまたはポスターに提示することを考えている。また、機関誌の発表では筆者全員が利益相反事項申告の対象となる。現在、詳細を詰めており、来年4月の施行開始を目指している。その後2年間試行し、さらに実務に合ったものにしていきたい」と話した。