山形大学腎泌尿器外科学教授の冨田善彦氏

 進行腎細胞癌に対する薬物療法には、インターフェロン-αやインターロイキン-2を使った免疫化学療法しかなかったが、新たに分子標的薬が加わった。山形大学腎泌尿器外科学教授の冨田善彦氏は、10月24日から開催された第45回日本癌治療学会総会のランチョンセミナー「腎細胞癌治療のNew Epoch」(共催:ファイザー)で、米国では、毎年5万例が新たに診断され、死亡者数は1万3000例と言われ、前立腺癌による死亡数が減少していることから泌尿器科分野では注意しなければならない癌種になっていること、日本でも毎年1万例が新たに発症していることを指摘。2006年のASCOで「“emerging” results of molecularly targeted drug on advanced renal cell carcinoma」と話題になった分子標的薬の位置づけと開発動向を皮切りに、治療法の現状について語った。

有転移症例でファーストラインに推奨される分子標的薬

図1 M1腎細胞癌有転移症例に対するPDQデータベースの治療選択肢(画像をクリックすると拡大します)

 まず冨田氏は、現在、米国がん研究所(NCI)のPDQデータベースにて、M1(遠隔転移あり)の腎細胞癌(RCC)有転移症例では、治療の選択肢の1〜3位を、順に、ソラフェニブ、スニチニブ、ベバシズマブという分子標的薬が占めるようになっている現状を紹介(図1)。欧州泌尿器科学会(EAU)の治療ガイドラインでも、チロシンキナーゼ阻害薬はファーストライン、あるいはセカンドラインとして考えるべきであるとグレードAで推奨。具体的には、転移性腎細胞癌のファーストライン治療として、スニチニブは低リスク及び中程度リスクの患者にグレードA推奨、テムシロリムスは高リスク患者にグレードA推奨されており、セカンドライン治療としてソラフェニブがグレードAとして推奨されている。

 では、このように化学療法において急速に台頭してきた分子標的薬は、具体的にどのようなメカニズムで働いているのか。

 冨田氏がまず解説したのが、腎細胞癌の増殖メカニズムだ。癌細胞は正常細胞に比べて増殖シグナルを遙かに強く持っているが、その1つにVHL遺伝子の関与がある。VHL遺伝子にコードされるのは低酸素によって誘導される転写因子HIF-1αで、VEGFやPDGF、EPO、TGF-αなどの発現を制御するものだ。通常の酸素濃度下(21%酸素濃度)では、HIF-1αは水酸化され、VHL蛋白質に結合する形でユビキチン化され、分解されるようになっている。

 しかし、低酸素状態になると、水酸化されないため分解を受けずに核内に移動し、多くの遺伝子を誘導してしまう。21%酸素濃度下でも、VHL蛋白質に変異が入ってしまうと、水酸化されず核内に移動して遺伝子を誘導してしまうという。これが、腎細胞癌の細胞で起こっている、いわばバックボーンの機構だ。こうして大量に作られるVEGFが血管内皮に作用して血管内皮細胞を増殖させるが、これだけでは癌化しない。つまり、HIFにより誘導される遺伝子産物のいくつかが癌細胞自体にも作用して増殖シグナルとなっている。

 そして、VEGFに対する抗体がベバシズマブ、VEGFやPDGFが結合し増殖シグナルを伝える受容体VEGFRやPDGFRに結合して下流のシグナル伝達を阻害するのがスニチニブ、VEGFRのほかにRafキナーゼを阻害するのがソラフェニブ、HIF-1αの活性化に働くmTORを阻害するテムシロリムス、エベロリムスと、近年登場した分子標的薬の位置づけを解説した。各分子標的薬の現状については、以下に各薬剤ごとに解説する。