2001年にHER2陽性転移性乳癌治療における新しい選択肢として、抗HER2抗体医薬であるトラスツズマブが承認された。しかし今、治療抵抗性症例が問題化し、“次の選択肢”が求められている。10月24日から開催された第45回日本癌治療学会総会のイブニングセミナー「分子標的薬の新たな展開─ErbBとVEGFを巡って」(共催:グラクソスミスクライン)では、乳癌治療の先端を走る2名の演者、米UCSF Comprehensive Cancer Center教授のHope S. Rugo氏と京都大学乳腺外科教授の戸井雅和氏が治療抵抗性と新規薬剤の概要を語った。

 まず口火を切ったのはRugo氏。Rugo氏は、悪性(転移性)乳癌における分子標的薬を用いた治療の現状と今後の展開について概要を語った。

トラスツズマブ抵抗性が治療の課題に

 乳癌のHER2陽性症例に対しては、抗HER2(ヒト化)モノクローナル抗体のトラスツズマブを用いた補助療法(化学療法剤、ホルモン療法剤との併用)により、3年生存率などの有意な改善が大規模試験で確認されている。しかし、HER2陽性症例が悪性乳癌全体の20〜30%であり、その中にトラスツズマブ治療抵抗性(耐性)症例が問題となっている。

 トラスツズマブ治療抵抗性の機序としては、細胞膜でのMUC(ムチン)4の過剰発現によるHER2受容体の活性化などが挙げられている。またトラスツズマブは高分子量であるため血液脳関門を通過することができず、このことが悪性乳癌症例の1/3に見られる脳転移例に抑制効果を示さない原因ともなっている。

 乳癌細胞の増殖を防ぐためには、ErbB (HER)受容体や他の受容体へのリガンドの結合阻害、細胞内での下流シグナル経路の阻害、インスリン様増殖因子(IGF)などの細胞外シグナル伝達活性の阻害が重要となる。トラスツズマブ治療抵抗性に対し、これらの阻害を目的とした新薬開発の研究が進んでいる。

期待される新薬lapatinib

図1 lapatinibのHER1、HER2受容体阻害様式の概要(画像をクリックすると拡大します)

 その1つ、期待される新薬として、lapatinibが挙げられる。lapatinibはチロシンキナーゼ阻害薬であり、HER1、HER2受容体刺激によるリン酸化を阻害する作用を有している(図1)。化学療法剤およびホルモン療法剤との併用療法を行ったフェーズIII試験で、無病生存率の有意な改善効果が認められている。またlapatinibは低分子薬であるため、血液脳関門を通過することが可能で、脳転移抑制効果が期待されている。

 その他ユニークな作用機序をもつ新薬として、pertuzumab、トラスツズマブ-DM1、HSP-90阻害薬が挙げられる。pertuzumabはHER2に結合するものだが、作用メカニズムは二量体化を阻害するもの。トラスツズマブ-DM1は薬剤抱合した抗体で、HER受容体結合後に、抗体に結合されていた化学療法剤(微小管阻害薬)が切断され細胞内に放出される仕組みだ。HSP-90阻害薬は細胞内でのHSP-90のシャペロン化を阻害する作用を持つ。