米国Washington大学医学部のMatthew J. Ellis氏

 乳癌治療の分野では、術前化学療法や術前ホルモン療法といった、術前に薬物療法を行う治療戦略が注目を集めている。術前化学療法においては、術後化学療法と同等の生存率が証明され、特に病理学的完全奏効(pCR)が得られた患者の予後が良好であることが既に示されている。

 一方、乳癌患者全体の約6割を占めるホルモン感受性乳癌に対する術前ホルモン療法に、どのような臨床的な意味があるのだろうか?

 「術前ホルモン療法の結果は、術後ホルモン療法の結果を予測しうる」というのは、乳癌治療の研究で世界をけん引している米国Washington大学医学部のMatthew J. Ellis氏。10月24日〜26日に京都市で開催された日本癌治療学会総会のランチョンセミナー「Optional treatment strategies in hormone-receptor positive early breast cancer; the role of Letrozole」(共催:ノバルティスファーマ/中外製薬)においての発言だ。

 現時点では、術前ホルモン療法は、乳房温存率を向上させるものの、術後ホルモン療法に比べ予後がどうであるかが検討課題であった。同氏の講演から術前ホルモン療法の意味について、これまでに明らかになっていることに最新情報を交えてまとめてみたい。

術前ホルモン療法は術後ホルモン療法の効果を予測

 現在、日本乳癌学会の最新診療ガイドラインによると、閉経後ホルモン感受性早期乳癌の術後補助療法としては、アナストロゾール(商品名「アリミデックス」)もしくはレトロゾール(商品名「フェマーラ」)というアロマターゼ阻害剤(AI剤)の利用が強く推奨されている。

 この推奨の根拠となっているのが、閉経後ホルモン感受性早期乳癌に対する術後療法として、アナストロゾールとタモキシフェンの効果を比較した大規模臨床試験(ATAC)と、同様の患者群に対して、レトロゾールとタモキシフェンの効果を比較した大規模臨床試験(BIG1-98)だ。

図1 閉経後ホルモン感受性早期乳癌を対象にレトロゾールとタモキシフェンの効果を比較したP024試験の結果(画像をクリックすると拡大します)

 Ellis氏は、BIG1-98に4年も先だって自らが行った臨床試験(P024)の成果を引用し、術前ホルモン療法の結果は、術後ホルモン療法の効果を予測し得るものであると話した。

 P024とは、閉経後ホルモン感受性早期乳癌を対象に、レトロゾールとタモキシフェンの効果を比較した臨床試験だ。その結果、レトロゾールは、タモキシフェンに比べて、有意に乳房温存率を高める効果が確認されている。P024では、レトロゾール群における乳房温存率は48%と、タモキシフェン群の36%と有意差を持って温存率が高まっていた(図1)。