病的骨折がアロマターゼ阻害剤最大の副作用と考えられる

図3 アロマターゼ阻害薬頻用時に予想される問題点の概要(画像をクリックすると拡大します)

 アロマターゼ阻害剤による治療では、全身のエストロゲン濃度が低下して様々な副作用が出てくる。その中で最も臨床的に問題となるのが骨量低下による病的骨折であると考えられる。アナストロゾールとタモキシフェンの乳癌術後補助療法としての効果を比較した大規模臨床試験であるATAC試験でも、唯一の深刻な副作用が、骨量低下による病的骨折だった。通常、大規模試験やプロスペクティブ試験では、途中でプロトコールを変更することは行なわないが、ATAC試験では骨量を増やすビスフォスフォネートの投与を患者保護の為に認めたという背景がある事からもこの病的骨折が問題になりえるという事は理解されるのではないかと考えられる(図3)。

 このATAC試験は乳癌の内分泌療法のclinical studyとしては最近ではもっとも優れた金字塔のように位置づけられるが、translationalな種々のdataも含めて数々の詳細な情報が集められている。 このATAC試験で骨量との関係、相関を見てみると試験に登録する際に骨密度が正常な症例は、その後、骨粗鬆症に移行することはほとんどなかった事が分かる。しかし、骨密度が若年女性平均値の80%未満の症例では5%に、70〜80%の症例では数%に骨粗鬆症、病的骨折が発生した。このことから、アロマターゼ阻害剤を投与する前に骨密度を測定することが重要なことを明らかにした事からも非常に良い示唆を与える臨床試験であった。

 しかしATAC試験でもう1つ大切な点は、日本人の患者が1人も参加していないということである。アジア系の参加者もけして多くはない。 骨粗鬆症には日照量、摂取するカルシウム濃度などの生活環境に加えて人種差がある事は否めない。すなわちATAC試験がどれだけ優れた結果であったとしてもその結果をそのまま日本人に用いることは実際上難しい。アロマターゼ阻害剤の投与に関して、日本人の骨の状態に応じた対応を決めたアルゴリズムを今後本邦でも作成していく必要があると思われるのはこういった事情によるところも大きい。

変化する骨密度、骨粗鬆症の概念

 最近、骨密度、骨粗鬆症と骨折の概念が、世界保健機関(WHO)でも規範されるように大きく変わろうとしている。 特にDXA(dual energy X-ray absorptiometry)が導入されて、従来極めて難しかった骨密度測定が非常に簡便になったことが背景にある。 そこで1992年、脊椎、大腿、上腕の骨密度測定で、骨粗鬆症および骨折のリスクを規定することを目的としたWHOのワーキンググループによる研究計画がなされた。

 この研究の結果から、若年女性の骨密度平均値より-2.5 SD以下の場合に骨粗鬆症とするという事が初めて明確に定義づけされ、骨粗鬆症の科学的裏付けが確定された。実際、大腿骨の骨量が若年のピークの-2.5SD以下になっている女性が北欧系の白人の場合16%存在し、また米国の北欧系の白人で大腿骨頸部の骨折率が16%と、よく一致することが2006年に報告されDXAを用いた骨密度測定で定義した骨粗鬆症が臨床的にも意義あるものという事が裏付けられた。

 しかし、これらの試験結果はそのほとんどすべて北欧人を中心とする白色人種のデータによるものであり、アジア系に関しては実はまだ正確にはわかっていない。このためDXAで測定した骨密度値だけでは完全に正確に骨折の因子を決められないのではないのかという疑問が当然おきてくる。そこで、より正確に病的骨折に対する治療が必要な患者を規定しようという研究が進められる事になった。実際に骨量が減ってもそれほど骨折しにくい人がいるはずであるという前提で、骨折する可能性を高くする因子、骨折の絶対危険因子を決定することを目的としたWHOのabsolute risk projects国際研究が現在進行中であり大きな期待がもたれている。