閉経後乳癌の内分泌療法に用いられるアロマターゼ阻害剤は、アンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素、アロマターゼの作用を抑制することで、エストロゲン依存性の腫瘍の増殖を抑制する。第3世代アロマターゼ阻害剤は現在、ステロイド系のエキセメスタンと、非ステロイド系のアナスタゾール、レトロゾールが存在する。3剤とも極めて効果的に腫瘍中、あるいは全身のエストロゲン濃度を低下させるが、これまで同一の条件で3剤を比較した臨床試験は存在しない。

 これら3剤のアロマターゼ阻害剤を使い分ける事が望まれるが、最近エキセメスタンには、ヒト骨に対してエストロゲン低下に伴う骨量減少を抑制する保護作用があるらしいことが明らかになってきた。10月24日から開催された第45回日本癌治療学会総会のランチョンセミナー「閉経後乳癌患者のアロマターゼ阻害剤治療とBone Health」(共催:ファイザー)では、東北大学病理診断学分野教授の笹野公伸氏が、基礎から臨床データまでを踏まえてエキセメスタンの骨組織への影響について解説した。

エキセメスタンは男性ホルモンであるアンドロゲンと構造が類似している

 ステロイド系アロマターゼ阻害剤のエキセメスタンは、アロマターゼの基質である男性ホルモンであるアンドロゲンと極めて類似した構造を持っている。一方、非ステロイド系のアナストロゾール、レトロゾールの構造はエキセメスタンとは全く異なる。これらの薬剤はトライゾール系と呼ばれる化学構造に属しており、もともとは同様の化学構造を有する殺虫剤がステロイドホルモンを抑える事もあったというような事実から開発が進められてきた背景がある。

 作用機序も異なり、アンドロゲンにその化学構造が類似したエキセメスタンはアロマターゼと基質との結合を競合的に阻害することで効果を発揮するのに対し、レトロゾールとアナストロゾールはアロマターゼ分子に存在している酵素反応を制御している電子伝達系の部位を阻害することでアロマターゼを阻害する。

図1 エキセメスタンの代謝物は男性ホルモン受容体に作用する(画像をクリックすると拡大します)

 エキセメスタンはアンドロゲン受容体に結合し、さらにエキセメスタンの代謝産物17hydroexemestaneにはエキセメスタンよりもかなり強力なアンドロゲン受容体結合活性がある。つまり、他のアロマターゼ阻害剤と異なり、エキセメスタンが投与された患者では個人差はあるものの体内で男性ホルモン作用が発揮される(図1)。

骨量と深い関係がある女性ホルモン、エストロゲン

 アロマターゼ阻害剤は非常に効果的な閉経期以降のエストロゲン依存性乳癌の治療薬ではあるが、薬剤の投与により大きな臨床的な問題となりえるのが骨量の低下、ひいては骨粗鬆症の発症である。骨細胞には骨を作る骨芽細胞と、骨を壊す破骨細胞の2つがあるが、この2種類の細胞の不均衡で種々の代謝性の骨異常症は生じてくる。また骨組織には、海綿骨という中にあるものと緻密骨という外を覆っている骨の2種類あるが、どちらもエストロゲン受容体とアンドロゲン受容体を発現している事が知られている。すなわちヒト骨組織も乳腺や子宮などと同様、活発にエストロゲンが作用するエストロゲン依存性組織だということが最近明らかになってきている。