この状況に変化が見られたのが、1990年代後半である。ドセタキセルなどタキサン系の抗悪性腫瘍剤が承認され、シスプラチンなどの白金系と5-FUなどの代謝拮抗薬を組み合わせる新しいインダクション化学療法の臨床試験が始まったことが1つの契機となった。

図3(上) ドセタキセル+シスプラチン+5-FU 併用の有用性を示す比較試験(TAX324試験)の概要  図4(下) TAX324試験の生存率

 TAX324試験はこのインダクション療法を評価したフェーズIII臨床試験で、2006年のASCOで発表された研究である(図3)。ステージIIIとIVの頭頸部進行癌の患者をドセタキセル+シスプラチン+5-FUの3剤併用群と、シスプラチン+5-FUの2剤併用群でインダクション化学療法を比較し、その後は両群とも放射線治療とカルボプラチンを併用する化学放射線療法に切り替える。図4は両群の生存率を追跡したデータだが、放射線療法に先行して3剤併用群の方が生存率が高い。

 このように、欧米では頭頸部の進行癌に対しては3剤併用のインダクション化学療法を行ってから、化学放射線療法に切り替える治療法が近年の主流になりつつある。では翻ってわが国ではどうか?

機能温存への要求が強い日本

 藤井氏は、ドセタキセル+シスプラチン+5-FUの3剤併用によるインダクション化学療法の有用性を検討した研究を紹介した。頭頸部癌では根治手術を希望せず、機能温存を優先したいという患者も少なくない。新しいインダクションにより温存の可能性を増やすことができるかを調べるのが目的だ。

図5(上) 国内で実施されたドセタキセル+シスプラチン+5-FUの3剤併用によるインダクション化学療法による試験の対象症例 図6(下) 試験結果の概要

 症例は図5に示した47例。この研究ではステージ4の下咽頭癌が最も多く、次いで舌・口腔癌、中咽頭癌、喉頭癌の症例が含まれている。治療成績は図6に示す。直接比較ではないが、シスプラチンと5-FUによる2剤併用のインダクション療法に比べ、3剤併用ではCRが約10%多く、治療成績の向上を示唆する結果が得られた。これらの結果を受けて藤井氏は、3剤併用によるインダクション化学療法の位置づけを、部位別にまとめている。