頭頸部癌の初診時には、既に手術不能なほど進行癌が多く、しかも重複癌が少なからずある。治療法によっては発声・構音・咀嚼・嚥下・顔貌などが影響を受けるため、QOLが著しく阻害されやすい。頭頸部癌については、これまでどうしても治療が後手に回る予後の期待できない癌というイメージがつきまとっていた。それが転換期を迎えつつある。新しい抗癌剤が増え、多剤併用療法やインダクション化学療法の組み合わせが再検討され、分子標的薬の臨床応用も始まった。従来の治療法に比べ成績の向上を報告する研究が次々と登場するようになった。10月24日から開催された第45回日本癌治療学会総会の最終日、ランチョンセミナー「頭頸部がん治療における薬物療法の役割と変遷」(共催:サノフィ・アベンティス)では、なすすべのない癌から手の打ちようがある癌へ変わりつつある状況について、国立病院機構東京医療センター臨床研究センター部長の藤井正人氏が、薬物療法の経緯を紹介した。

図1 頭頸部癌の治療成績の現状(画像をクリックすると拡大します)

 藤井氏は最初に、治療成績の現状について概略を紹介した(図1)。ステージIまたはIIで治療した例では、単純切除や放射線療法単独でも5年生存率は70〜90%で、生存が期待できる癌となっている。しかし進行癌(ステージIIIとIV)では、集学的治療を行っても5年生存率は30〜60%しかない。進行癌では、手術切除が可能だった例でも局所再発率が60%を超え、10〜20%は遠隔転移に至る。切除不能例の5年生存率は20%未満。こうした状況を改善する手だてが求められているわけだ。

 次に藤井氏は薬物療法の歴史的経緯にふれた。頭頸部癌の薬物療法は、1978年にシスプラチンが登場してからスタートしたと言ってよいだろう。それまで頭頸部癌の治療に携わる医師の多くは、化学療法には全く期待できない状況だった。しかし、シスプラチンを用いた臨床研究がスタートして、わずかだが奏効例があることが分かったことで、薬物療法を試みる価値があるという期待がこの時期に生まれたといえるだろう。

インダクション療法を行い、化学放射線療法へと進む欧米

図2 局所進行頭頸部癌に対するインダクション化学療法と局所療法の比較(画像をクリックすると拡大します)

 その後、1982年にインダクション化学療法(導入化学療法)が提唱され、80年代にはさまざまな組み合わせによるネオアジュバント化学療法の臨床試験が試みられた。手術や放射線治療との併用療法で一部には有望なデータもあったものの、進行頭頸部癌の薬物療法としては、なかなか期待通りの治療成績が得られない状態が続いた(図2)。