国立がんセンター中央病院副院長の小菅智男氏

 わが国の癌死亡数第5位を占める膵癌は、難治性固形癌の代表とされている。膵癌切除不能例に対する全身化学療法では塩酸ゲムシタビン(商品名「ジェムザール」)が延命効果の示された標準治療薬とされているが、最近の内外の報告では、切除後の補助化学療法においてもゲムシタビンによる無病生存期間の延長が示され、大きく注目されている。10月24日から開催された第45回日本癌治療学会総会の最終日、ランチョンセミナー「膵癌術後補助化学療法をめぐる現状と今後の展望」(共催:日本イーライリリー)では、注目される、術後補助療法におけるゲムシタビンの有効性について、国立がんセンター中央病院副院長の小菅智男氏が解説した。

 膵癌は他の癌と異なり、特異的な臨床症状に乏しく、検診での検出率も低いことから、発見されたときには進行度が高い状態であることが多い。膵臓学会の全国調査によると、膵癌の約90%は極めて予後の不良なstageIII〜IVa、bだ。

 膵癌の根治は外科的切除以外には望めないため、過去には積極的な拡大手術が行われたが、欧米を中心に拡大手術による生存率の向上は認められないとする報告が相次ぎ、日本でもこれを支持する研究結果が得られたため、その適応が厳格化されるようになった。現状では、手術療法、化学療法、放射線療法などいくつかの治療方法を組み合わせた「集学的治療」に期待が持たれている。

CONKO-001試験で示されたGEM投与によるDFS延長

 膵癌切除例に対する術後補助療法の無作為化比較試験は、1974年に米国のGITSG(Gastrointestinal Tumor Study Group)で行われたのを皮切りに、欧州などで実施されてきた。GITSGでは,切除単独群と術後化学放射線療法+維持化学療法群(化学療法は5-FUを投与)の予後を比較検討したところ、後者で生存期間が有意に良好であったと報告した(Kalser MH et al. Arch Surg 1985;120:899-903)。この結果を受けて、米国では化学放射線療法が標準的治療法となった。

 一方、欧州ではEORTC(European Organization for Research and Treatment of Cancer)が補助化学放射線療法に関する無作為化比較試験を行ったが、切除単独群と5-FUを用いた術後化学放射線療法群との間に有意差は認められなかった(Klinkenbijl JH et al. Ann Surg 1999;230:776-782)。また、ESPAC(European Study Group of Pancreatic Cancer)による試験(ESPAC-1)でも、5-FUを用いた術後化学放射線療法群では延命効果が示されず、5-FU+ロイコボリンによる化学療法群では延命効果が認められた(Neoptolemos JP et al. N Engl J Med 2004;350:1200-1210)。これらの結果より、欧州では化学療法が標準的治療と考えられている。

 日本では、切除単独群に対してマイトマイシンC+5-FUによる術後化学療法群とを比較したTakadaらの報告(Takada T et al. Cancer 2002;95(8):1685-1695)でもシスプラチン+5-FUを用いたKosugeらの報告(Kosuge T et al. Jpn J Clin Oncol 2006:36(3);159-165)でも有意差を認めなかったことなどから、術後補助化学療法の有用性は確立していなかった。

図1(上) CONKO-001試験での無病生存期間 図2(下) CONKO-001試験での全生存期間(画像をクリックすると拡大します)

 2005年、ASCOでドイツとオーストリアを中心としたグループであるCONKO(Charite Onkologie)が、塩酸ゲムシタビン(GEM、商品名:ジェムザール)を用いた無作為化比較試験(CONKO-001)の結果を発表した。2007年、JAMAに掲載された報告によると、副次的評価項目である全生存期間(OS)ではGEM投与群と非投与群間のP値は0.06(log-rank検定)であり、主要評価項目である無病生存期間(DFS)ではGEM投与群において有意な延長が示されたことから、GEMによる膵癌術後補助化学療法に対する期待が一気に高まった(図1、2 Oettle H et al. JAMA 2007;297(3):267-277)。