表1 アロマターゼ阻害剤治療後再発のメカニズム(表をクリックすると拡大します)

 林氏は表1に示すような5つの仮説を立て、各仮説において、生物学的メカニズムに基づきどのような薬剤選択が可能かが示された。まず、林氏による仮説1〜5について解説すると──

●仮説1「特定のAI剤に対する代謝能、排出能の亢進によるAI剤抵抗性」

 現在、国内で利用可能なAI剤は3剤存在するが、その3剤とも異なる代謝酵素で代謝される。特定のAI剤に対する代謝能や排出能が活性化することでAI剤抵抗性が生じているとしたら、他のAI剤への変更、もしくはSERMへの変更で対応できると林氏はいう。

●仮説2「アロマターゼの構造的質的変化によるAI剤抵抗性」

 林氏は、これまでにアロマターゼの構造や質が変化するという報告は無く、仮説2が生じる可能性は非常に低いとしている。非常に低いながらも仮説2のメカニズムで全てのAI剤耐性になった場合でも、ER活性は残っていると考えられるため、SERMに治療効果が期待できるとしている。

●仮説3「エストロゲン以外のERリガンドによるAI剤抵抗性」

 閉経後ホルモン感受性乳癌の増殖は、男性ホルモン(アンドロゲン)から変換されたエストロゲンにより活性化されている。AI剤は、このアンドロゲンをエストロゲンに変換させる酵素:アロマターゼを阻害する薬剤だ。

 林氏らは、in vitroの実験で、AI剤の投与により、アンドロゲンからエストロゲンの変換が抑制されると同時に、アンドロゲン代謝産物が大量に生産されることを確認している。

 実は、このアンドロゲン代謝産物は、ERに対して弱い結合活性を持つという。すなわち、AIによりエストロゲン産生が抑制される一方で、エストロゲン様活性を持つ物質(アンドロゲン代謝産物)が新たに大量生産され、ERに作用しAI剤抵抗性を生じている可能性があるというのだ。

 仮説3のメカニズムでAI剤耐性になった場合、ERの活性は維持されていると予想される。そのため、ERに対して、新たなリガンドとなるアンドロゲン代謝産物の結合も阻害できるSERMに効果が期待できると林氏は分析している。

●仮説4「増殖因子を介した新たなリン酸化経路によるER活性化から生じるAI剤抵抗性」

 この仮説は癌細胞自身が変化し、リン酸化を介したシグナル伝達が新たに活性化することで生じると推測される。この場合、AI剤による治療効果は期待できないが、リン酸化経路に作用するキナーゼ阻害剤とSERMを併用することで、治療効果が期待できる可能性がありそうだ。

 実際、国際的にも、増殖因子の1つと考えられるIGF1Rに対する抗体医薬など、新たなキナーゼ阻害剤の開発に注目が集まってきている。

●仮説5「ERに依存しない増殖能の獲得によるAI剤抵抗性」

 この仮説では、ホルモン感受性からホルモン非感受性に癌組織が変化したと考えられる。ホルモン非感受性への変化のメカニズムは、1)ERは発現しているものの、エストロゲンに対する感受性が完全に失われた場合や、2)ERが陰性化した場合が考えられるという。この場合、ホルモン受容体の下流のシグナル伝達に変化が生じるためホルモン療法に効果は期待できず、化学療法や分子標的療法が適応になる。