高額な抗癌剤の登場や外来化学療法の普及、長い臨床経過などにより、化学療法を受けている癌患者の経済的負担は年々増加している。多くの患者は、医療費支払いの資金として、自分の貯金や民間保険の給付金をあてにしており、経済的理由から治療内容を変更せざるを得ないケースもでてきている実態が明らかになった。

 東北大学医療管理学教授の濃沼信夫氏らが2004年10月〜2007年9月までの3年間に行った多施設調査で、10月24〜26日に京都で開催された第45回日本癌治療学会総会で発表された。

 濃沼氏らは、全国35の中核的な癌診療施設の癌患者4174人(うち化学療法を受けている患者は955人)を対象に、実際の治療にかかった自己負担額や償還額、民間保険給付額などについて、実際の領収書などに基づいて記入してもらう自記式調査を行った。

図1 化学療法を受ける患者の自己負担額 3年間、費用内訳別。平均自己負担額は04年度71万円(n=223)、05年度113万円(n=269)、06年度110万円(N=463)

 その結果、4174人が癌治療のために自己負担している金額は年間平均93.1万円だった。入院や外来治療、交通費(直接費用)に加え、健康食品・民間療法や民間保険料(間接費用)の費用もかさんでいる患者が多く、かかる費用の内訳は直接費用と間接費用、半々だった。

 また、患者に後から戻ってくるお金として、高額療養費、民間保険給付を受けている患者はそれぞれ40%程度。償還・給付額の平均は54万円程度だった。

 4174人のうち、化学療法を受けている患者955人(平均年齢64歳、年間通院回数23回、入院日数35日)に着目すると、年間平均自己負担額は110万円程度で、3年間で入院費用が著しく減少している一方、外来費用や交通費、健康食品にかかる費用、保険料は上昇している傾向にあった(図1)。

 化学療法を受けている患者は、自己負担金支払いに「貯蓄の取り崩し」(64%)、「民間保険の給付金」(20%)を充てていた。その他、「高額療養費の貸付制度や受領委任払い制度の利用」、「親族からの借金」などが続き、いずれにしても支払いのための負担感が強い実態が明らかになった。

 実際、経済的負担が治療選択に影響をおよぼしたかについては、6%の患者が「影響あり」と回答。具体的には高額な抗癌剤を使った治療の変更や延期、中止が主な対応だった。

経済的な負担 4分の3の医師が「説明せず」

 また、濃沼氏は同35施設の担当医師にも調査を行った。癌患者の担当医691人のうち81人(11.8%)の医師が、最近6カ月間で経済的理由から癌治療内容を変更した経験があると回答。その患者数は106人(平均61歳)で、全担当癌患者の約1%以下であることが推定された。
 事前に説明した治療の医療費平均は73.8万円だったのに対し、変更後は15.4万円になった。

 一方で、経済的な負担について患者や家族に十分な説明がなされているケースはまだ少なく、医師、患者側ともに、実際に説明を受けた(した)と回答したのは4分の1程度。

 患者側と医師側で経済的負担に関する認識も異なっており、患者負担を減らすために推進すべきものとして、医師の多くは「経済的負担に関する情報提供」「経済的負担に関する情報の充実」が大事だと考えているのに対し、患者の多くは「自己負担の軽減」「高額療養費限度の引き下げ」を挙げた。つまりは、医師は各治療法にかかる経済的負担を積極的に情報提供すべきと思っているのに対し、患者は直接的な支援を求めるくらい切羽詰っているということだ。

 「患者にとって経済的負担は年々重くなっており、化学療法を断念せざる得なかった人は必ずしも低所得者ではない。患者が等しく適切な癌治療を受けられるようにするため、患者負担の軽減に向けた取り組みが必要だ」と濃沼氏は話す。

 まず同氏は、「医師はこうした実態に十分配慮してコスト意識を持ち、治療法の説明の際には、臨床面だけでなく経済的な部分の説明と同意も必要だ」と指摘する。経済的負担を患者に分かりやすく示すことができるような情報提供システムの構築も必要であると提案した。