第45回日本癌治療学会総会が10月24日から26日の3日間、京都で開催される。今年の4月には「がん対策基本法」が施行され、6月には国のがん対策のグランドプランである「がん対策推進基本計画」が策定された。これに伴い日本の癌診療の強化が加速される。また、癌治療学会への期待も高まる。本総会の会長である平岡真寛氏に3日間の見どころを聞いた。(聞き手は埴岡健一)



平岡真寛氏 京都大学放射線腫瘍学・画像応用治療学教授

──がん対策法が施行された今年は、学会にとっても大きな節目といえますね。

平岡 個別の疾患のために特別の法律が制定されるということは珍しいことで、癌対策に関する法律ができたことは画期的なことだと思います。癌の臨床に関わるものとしては、誠にありがたいことだと認識しています。同時に当学会の果たすべき役割も重くなるでしょうね。その責務もひしひしと感じているところです。

──これまで以上の臨床成果が求められるようになる・・・

平岡 政府は、1983年からの「対がん10ヵ年総合戦略」、1994年からの「がん克服新10か年戦略」、2004年からの第3次対がん10か年総合戦略「がんの罹患率と死亡率の激減を目指して」に取り組んできました。これまで24年間、癌対策に取り組んできたわけですが、新たに法律が作られたということは、国民の目からするとこれまでの癌対策が必ずしも十分でなかったということになるでしょう。なかでも、基礎研究に関して多くの資金と労力が投入されてきたわけですが、それが十分に患者や一般市民に成果をもたらしたかどうか、そこに納得感が得られていないということがいえるのではないでしょうか。確かに、これまでは基礎研究を重視している部分があったと思います。これからは臨床と臨床の研究に軸足が置かれるようになっていくんでしょうね。

──これまでの取り組みに足りなかったことはどんなことでしょうか。

平岡 国民が我々に投げかけている疑問は、自分や家族が癌になったとき、十分な治療をしてくれる専門的な知識を持ち合わせた医師が近くにいるのかどうかということでしょう。そして、患者が自分の病気の治療法や治療機関を知り、選択するための情報が不足していたことではないでしょうか。その2点に集約されるといっても過言ではないでしょう。率直にいえば、これまでこうしたことが不十分だったと認めざるを得ないところがあったと思います。これまでの対癌戦略はたくさんのことを成し遂げたという成果がありますが、反対にできていなかったこともたくさんあったと感じています。

──癌治療学会としてはどのような意気込みをお持ちになっているのですか。

平岡 これまで足りなかったことが何かをよく認識したうえで、これから良くしていくために取り組んでいく姿勢が大切でしょう。一口で言って、これまでは患者の視点が不足していたと思います。だから情報を十分に提供することもできていなかった・・・。幸い、癌治療学会は、癌の種類と臓器においても、外科手術、抗癌剤治療、放射線といった治療法においても横断的な学会です。看護師、薬剤師、技師などもたくさん参加しています。癌治療学会に問われていることは大きいし、責任も重いと感じています。質の高い癌診療を日本で幅広く提供できる体制を整備すると共に、患者に分かりやすい情報を提供することに寄与していくべきでしょうね。

──6月に閣議決定されたがん対策推進基本計画では、「癌による死亡者の20%減少」「すべての癌患者・家族の苦痛の軽減と療養生活の質の向上」が目標とされ、「放射線療法と化学療法の推進と、これらを専門的に行う医師などの育成」「治療の初期段階からの緩和ケアの実施」などを重点項目として取り組むことになっています。癌治療学会としてはこの辺りをどのように進めることになるのでしょうか。

平岡 日本の手術の技術は高いレベルにあると思います。それは素晴らしいことでしょう。しかし、基本計画にあるように、これからは放射線療法や化学療法を含めたチーム医療によって、患者一人ひとりに適切な治療ができる体制を整備していかなければならないと思います。ブラックジャックのような腕のいい外科医が一人で手術の腕で勝負するというより、多職種の多くの専門家が集学的にチーム医療によって総合力で癌を治すという時代になっていると思います。

 癌を治療する医療従事者の不足やアンバランスを解消していくことも大切でしょう。外科医に比べて放射線治療医は圧倒的に少ないのが現状です。抗癌剤治療の専門家も足りません。緩和ケアができる医師も不十分です。まさに癌の医療体制が問われていると認識しています。こうした観点から今回、総会の特別企画として、「がん対策基本法を見据えた新たながん診療のあり方 −患者が求めるがん医療とは」というタイトルでパネルディスカッションを行います。厚生労働省、文部科学省や癌経験者など、8人のパネリストで議論する予定です。