第48回日本呼吸器学会学術講演会が6月15日から開催された。日本人の死因の一位である癌のうち最も多いのが肺癌、そして胸膜中皮腫の発生増加が社会問題化するなど、癌の領域だけを見ても、呼吸器学への期待は大きい。会長を務めた曽根三郎氏に話をうかがった。




徳島大学呼吸器・膠原病内科学分野教授の曽根三郎氏

――呼吸器学会の会員数は1万名を超え、そのカバー範囲は呼吸器学のあらゆる領域に及んでいます。これらの人たちが一同に会して、同じベースで議論をすると言うことが可能なのでしょうか。

曽根 もちろんです。肺は複雑な臓器で、急性毒性や間質性肺炎も出やすく、癌であっても感染症であっても、肺の特性を知ることが非常に重要です。たとえば肺癌の治療を行うためには、癌をとりまく肺の状態に常に関心を払わなくてはいけないのです。私もその渦中にいたゲフィチニブ(イレッサ)の副作用問題も、呼吸器科医が処方していたならばあそこまで大きくはならなかったでしょう。癌を治療するのではなく、癌を持っている患者さんを治療するという観点が、特に重要な分野なのです。

――ゲフィチニブの副作用のみがクローズアップされた時、分子標的薬の特性、つまり特定の集団にのみ強力な効果を示す薬剤であるということをアピールできなかったのでしょうか。

曽根 今なら言える。でもあの時は、患者さんがみんな待っていたのです。そして一斉に使ってしまった。ただし、これからの道筋は決まっています。つまり、有効性を予測できるマーカーを同時に開発しないと、薬剤は承認されなくなるのです。2006年に、癌の分子標的薬をテーマにした国際シンポジウムで、Drug-Diagnostic Co-Developmentという、癌治療効果予測マーカーの同時開発に向けた重点政策が明らかにされました。その時FDAの担当者がこう言ったのです。

我々は間違っていた。患者は皆、抗癌剤の副作用で苦しんでいる。分子標的薬はそうしてはいけない。投与する患者を絞り込むとマーケットが縮小するという利益相反が存在するが、これに対して開発をプッシュしなかったのはFDAの責任である――と。

――そして現在、バイオマーカーに関する論文の数が飛躍的に増えています。

曽根 それはマーカーの開発が一筋縄ではないことの表れでもありますね。EGFR-TKI(上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ)阻害剤であるイレッサは、チロシンキナーゼドメインに遺伝子変異があると奏功率が高いことが明らかになっていますが、変異がなくても12%の患者には効くのです。

 我々は文科省のがんトランスレーショナル事業において、12個の遺伝子の発現を解析して治療効果を予測するQUEENアッセイと呼ばれる方法を他の施設と共同開発しています。この方法で特徴的なのは、癌が小さくなる患者(CR+PR)の予測だけでなく、大きくも小さくもならない、Long SDの患者の予測ができることです。

 ゲフィチニブを用いたスタディ、IDEAL-1では、CRが0%、PRが18.5%、そしてSDが35.9%という結果でした。そして続くIDEAL-2では、PRの生存期間平均値が16.3カ月だったのに対し、SDのうち症状が改善したグループでは13.7カ月という結果が得られました。ちなみにPDでは5.4カ月です。つまり、SDの中には、PRに劣らない予後が得られる患者が存在するのです。この患者は、分子標的薬の非常によい投与対象になるのではないでしょうか。なぜならば、分子標的薬は繰り返し投与できるからです。

 これまでの抗癌剤治療では、サードライン以降の治療効果は極めて限られ、逆に副作用は増大して行きました。例えれば、ハードルが徐々に高くなり、背中に背負った副作用という荷物は重くなって行くわけです。これに対して分子標的薬では回数を重ねてもハードルは同じ高さのままで、荷物の重さも変わりません。

 これまで我々は、CRに囚われすぎていたのではないでしょうか。副作用もグレード3までなら我慢せよと。しかしこれからは、癌と共存していくことができる。患者のQOLを考えても、どちらが取るべき方向かは明らかでしょう。そして共存しながら、年単位で生存期間を延ばせたらいいなと考えています。極端な言い方をすれば、奏功率なんて医者の視点でしかない。

――話は変わりますが、先日の地方紙に、禁煙の大切さを書かれていましたね。

曽根 禁煙が一番早いんですがね。病棟を回ると、無力感を感じることがあるんですよ。特に男性は、みんな喫煙者ですから。患者さんには、「息子には禁煙するように言ってください」といつも言っているんです。