切除不能進行胃癌に対して、ファーストラインとしてどのような治療を行うのか。今まで明確になってはいなかったこの大きな課題にようやく結論が出た。日本における3件の臨床試験結果に基づいた結果、S-1シスプラチンの併用が、当面のコンセンサスとなった。


 切除不能進行胃癌に対する当面のファーストライン化学療法は、5-FU系経口抗癌剤S-1と白金系抗癌剤であるシスプラチンの併用――。このほど開催された第80回日本胃癌学会総会のシンポジウム「切除不能進行胃癌に対する化学療法の新時代」で得られたコンセンサスだ。

 これはわが国で行われた3つのフェーズIII臨床試験に基づく。昨年、米国臨床腫瘍学会(ASCO 2007)で発表されたJCOG9912試験とSPIRITS試験、今年1月のGASTROINTESTINAL CANCER SYMPOSIUM(ASCO GI)で発表されたTOP-002試験だ。

 ちなみに2004年に改訂された「胃癌治療ガイドライン・第2版」では、化学療法に関して、「胃癌に対する標準的化学療法として、フッ化ピリミジン(5-FU等)とcisplatin(CDDP)を含む化学療法が有望であるが、国内外の臨床試験成績からも現時点で特定のレジメンを推奨することはできない」とされていた。

 1999年に登場したS-1の臨床データがようやく蓄積されてきたことが、今回のコンセンサスにつながったと言える。

S1+シスプラチンで生存期間中央値が13カ月

 99年にスタートしたJCOG9912試験は、進行胃癌を対象に静注5-FU、S-1、イリノテカン+シスプラチンの、3つの方法を比較した試験。S-1の静注5-FUに対する非劣性が証明され、イリノテカン+シスプラチンは静注5-FUに対する優越性を示すことができなかった。

 この試験で、5-FU群には、1日当たり800mg/m2を1日目から5日目まで投与することを4週置きに行った。イリノテカン+シスプラチン群には、1日目と15日目にイリノテカンを70mg/m2、1日目にシスプラチンを80mg/m2投与することを、4週置きに行った。S-1群には、1日40mgを1日目から28日目まで投与することを6週置きに行った。

 2000年11月から2006年1月までに704人の患者が各群に割り付けられ(5-FU群234人、イリノテカン+シスプラチン群236人、S-1群234人)、最終的な解析は2007年2月に実施されたが、その時点では全患者の85%に当たる601人が死亡していた。

 生存期間中央値は、5-FU群が10.8カ月、イリノテカン/シスプラチン群が12.3カ月、S-1群が11.4カ月だった。1年生存率は、5-FU群が44.0%、イリノテカン+シスプラチン群が52.5%、S-1群が47.9%だった。

 そしてSPIRITS試験では、進行胃癌に対するS-1とシスプラチンの併用が、S-1単独投与よりも、全生存期間、無病生存期間とも有意に長く、また奏効率も有意に高いことが示された。試験は進行胃癌患者305人(平均年齢は62歳)を対象に、S-1単独群と、S-1とシスプラチンの併用群に割り付け比較検討した。追跡期間は2年だった。

 その結果、S-1+シスプラチン群では、生存期間中央値が13カ月、S-1単独群では11カ月 (p=0.0366)、ハザード比は0.774(95%信頼区間 0.608-0.985)となった。また無病生存期間(PFS)は、それぞれ6カ月と4カ月だった。併用群87人、単独群106人のうち、部分奏効(PR)はそれぞれ46人、32人であり、完全奏効(CR)はどちらも1人だった。全奏効率は併用群で54%、単独群で31%と、併用群で有意に高いことが示された(p=0.0018)。また忍容性も高いことが確認された。

 シンポジウムでSPIRITS試験を紹介した北里大学消化器内科の小泉和三郎氏は、「S1+シスプラチンの併用療法は、進行胃癌に対する標準的なファーストライン化学療法の一つとみなすことが出来る」と結論づけた。

イリノテカン+S-1はS-1単剤に対し優越性示せず

 もう一つの試験、TOP-002試験は、イリノテカンとS-1の併用療法(IRI-S)と、S-1単独投与とを比較した試験。IRI-S群は生存期間中央値でS-1単独投与群を上回ったが、全生存期間(OS)では統計学的な優位性を示すことができなかった。

 TOP-002試験は、1日当たり80mg/m2のS-1を4週間、6週置きに投与するS-1単独投与群と、1日目と15日目に80mg/m2のイリノテカンと1日目から21日目まで80mg/m2のS-1投与を5週置きに投与するIRI-S群に分けて行われた。試験参加基準を満たし、評価された患者は、S-1単独投与群で160人、IRI-S群で155人となった。

 試験の結果、奏効率はS-1単独群が26.9%(95%信頼区間 18.2-37.1)、IRI-S群が41.5%(95%信頼区間 31.4-52.1)で、IRI-S群が有意に高かった。生存期間中央値は、S-1単独群が10.5カ月(95%信頼区間 9.4-13.0)、IRI-S群が12.3カ月(95%信頼区間 10.7-15.1)だった。1年生存率はS-1単独群が44.9%(95%信頼区間 37.2-52.6)、IRI-S群が52.0%(95%信頼区間 44.1-59.9)。フォローアップ期間中央値はS-1単独群が10.4カ月で、IRI-S群が12.6カ月。

 しかし、主要評価項目である全生存期間に関してLog-rank検定を行ったところ、p=0.2327、ハザード比0.856(95%信頼区間 0.663-1.106)と、IRI-Sの優越性を示すことはできなかった。

 ただし、生存期間については、試験開始時には1年半と予想されていたのに対し、両群で22%、68人の患者がそれを超えて生存している。より正確に評価するためには、フォローアップ期間をもっと大きくとってみないとわからないという指摘もある。

 発表した国立病院機構大阪医療センター外科の藤谷和正氏は、「IRI-Sは序盤での生存率が良好であり、副作用が軽度で外来治療が可能なことから、ファーストラインの選択枝となる可能性がある」と語った。

 続けて発表を行った静岡がんセンター消化器内科の朴成和氏は、JCOG9912試験において、標的病変を有するグループではイリノテカン+シスプラチン群だけが1年を超える生存期間中央値を示し、またS-1は1年を越えた生存率は良好なものの6カ月までは5-FUの生存曲線と重なっていることから、イリノテカンやS-1が特異的に効果をもたらす集団の存在の可能性を指摘した。

 朴氏は現在、JCOG9912、SPIRITS、TOP-002の観察期間を2年に統一して統合解析を行うことを計画中だと言う。またフロアからは、「シスプラチンを使えない人にはS-1とイリノテカンとの併用が使える可能性がある」といった意見も出された。

今はドセタキセル併用に関して試験が進行中

 続いてシンポジウムでは、S-1とドセタキセルの併用と、S-1単独療法とを比較するフェーズIII臨床試験、JACCRO GC-03試験が進行中であることが紹介された。また、トラスツズマブやベバシズマブ、ソラフェニブ、スニチニブといった分子標的薬の開発が進んでおり、数年後には、進行胃癌に対する新たなファーストラインが選定される可能性は十分にある。

 いずれにせよ現時点では、S-1とシスプラチンの併用がファーストラインであるという点に異論が出ることはなかった。しかし、最後に総括を行った国立がんセンター東病院消化器内科の大津敦氏は、「今回得られたコンセンサスは、あくまでS-1が広く使われている日本仕様のもの。S-1とシスプラチンの併用が世界標準となるかどうかを見極めるためには、2009年の米国臨床腫瘍学会(ASCO2009)で発表予定のFLAGS試験(5-FU+シスプラチンに対するS-1+シスプラチンの優位性を検証する国際フェーズIII試験)まで待つ必要がある」と語った。

 さらに大津氏は今後の課題として、イリノテカンの位置づけと、ファーストラインと位置づけるための評価項目として全生存(OS)に変えて無増悪生存(PFS)を使用すべきか、さらに二次治療の標準化などを指摘した。