第80回日本胃癌学会総会の初日2月27日には、「胃癌診療の均てん化を目指して」と題した特別企画が開催された。その中で、胃癌診療がうまくいっている地方自治体の例として福井県の、問題を抱えている地方自治体の例として青森県の実情が発表された。

 福井県は、全国に先駆けて精度の高い胃癌登録を実践していることで有名だ。今回の特別企画では、福井県立病院の細川治氏が、福井県における胃癌登録の歴史や診断技術を高めるために行っている研究会の内容を発表した。細川氏によると、福井県では胃癌の早期診断技術を高めるため、70年代から県外から専門家を招聘した研究会を開催し、また標準的な診断を広めるための冊子の作成などを行ってきた歴史があるという。

 また、福井県健康福祉部健康増進課の蜂谷陽子氏は、県下の胃癌患者の約7割が、5つのがん診療拠点病院(都道府県がん診療拠点病院、地域がん診療拠点病院)で治療を受けている現状を報告した。加えて蜂谷氏は、拠点病院で治療を受けた胃癌患者の5年生存率は、それ以外の病院で治療を受けた患者に比べて良好であるというデータも示した。福井県における胃癌診療は、既にがん拠点病院への集約化が進んでおり、治療成績もがん拠点病院が勝っていることを示唆する内容だ。

 一方、青森県立中央病院院長の吉田茂昭氏からは、青森県では、胃癌検診の受診率は低くないものの、精査受診率が低い点、早期胃癌の比率が全国平均に比べて低い現状が報告された。精査受診率の低さから早期がんの発見が遅れ、そのために青森県における癌死亡率が高くなっている可能性が考えられそうだ。

 吉田氏は、青森県において精査受診率が低い理由として、精査費用の自己負担に耐えられないという経済的理由や、精査を受けられる医療機関までの交通事情の悪さ、一次産業従事者が多いために繁忙期に仕事が休めないなどの理由が考えられるとしている。そのため、一次産業従事者が多く、また、交通事情も悪い地域において、いかに精査受診率を高めるかは大きな課題といえそうだ。

 加えて吉田氏は、広い地域に人口が分散している青森県では、医療資源の一極化が難しく、各病院が医師不足に陥りやすい現状にあると述べた。実際、青森県内には、病理医が16人存在し、人口比率で見ると決して少数ではないものの、弘前大学にその多くが在籍するため、6つの基幹病院には1名しか在籍していないのが現状という。さらに病理医の平均年齢が高くなりつつあることも問題点として指摘した。「均てん化どころか、医師がいないのが現状」と吉田氏は、地域医療の抱える深刻な状況を訴えた。

 フロアからも、東京への医師の偏在を指摘する声が複数あげられ、地方における医師不足は全国的に深刻化している様相をうかがわせるものとなった。

 ただし、医師不足というフロアからの声を受けた吉田氏は、「福井県のようにうまく行っている地域の事実を出してもらえれば、我々の励みになる」と語り、医師の流出があっても、検診システムを改良したり、コメディカルを活用するなどで対応していける可能性があること、また、システムを改良し、いい成果を出していけば医者は戻ってくるはずとの前向きな考えも示した。

 均てん化を目指すという同じ目標を掲げながら、各地域の実情を踏まえたシステムを構築していくことの重要性が再確認されたといえそうだ。