第80回日本胃癌学会総会が2月27日から29日までの3日間、横浜市で開催される。昨年4月の「がん対策基本法」の施行以降、様々なところから「均てん化」の声が聞こえてくるが、癌診療の先頭を走ってきて、最も均てん化が進んでいるであろう日本胃癌学会が掲げる“癌診療の均てん化”にはどんな意味があるのか。本総会の会長を務める下田忠和氏にその内容と学会の見所を聞いた。(聞き手は関本克宏)


国立がんセンター中央病院臨床検査部病理検査室医長の下田忠和氏

――今回の日本胃癌学会総会のテーマは「がん診療の均てん化」です。日本において胃癌は癌診療のトップを走って来て、治療の均てん化も進んでいるのではないかという印象がありますが。

下田 胃癌診療において日本は、豊富な研究と実践に基づいて、診断から治療まで世界のトップを走っていると言ってよいでしょう。標準治療の普及を目指して癌治療のガイドラインを他の癌種に先駆けて作ったのも、日本胃癌学会です。そして学会の発足から10年、「胃癌治療ガイドライン」が出来てから6年経ちました。これまで我々が行って来たことはどういう効果があったのか、ここで検証しておこうということです。でなければ、均てん化ということが分かったようで分からない。

 また、「がん医療の均てん化の促進」を目的とするがん対策基本法の施行により、診療システムの問題がクローズアップされてきています。それぞれの地方の地域病院、連携拠点病院が今どういう問題を抱えているのかといったことも浮き彫りにしていく必要がある。今回は、そういったシステムの問題も胃癌診療を材料に議論しようと考えました。具体的には「特別企画・胃癌診療の均てん化を目指して」と題して、政策立案に関係した方も交えて議論します。どこまで行けるか分かりませんが、ここで浮き彫りになった問題点を政策に反映してもらうことが出来ればと考えています。

――今回の抄録を見ると、化学療法に関する演題が増えているように思えます。

下田 そうですね。ここに来て、内科治療が胃癌学会の重要なテーマの一つになっています。有効な薬剤が登場して、しかもフェーズ3の結果も出ている。術前化学療法やセカンドライン化学療法など、化学療法の出番が広がっています。今回の総会でも、「切除可能進行胃癌の術前化学療法戦略」「切除不能進行胃癌に対する化学療法の新時代」といったワークショップ、シンポジウムを予定しています。

――早期胃癌に対しては、日本では早期発見、早期治療という一つのスタイルが確立しているので、残っている大きな問題は、そういうところから漏れてしまった患者さんであるということでしょうか。

下田 確かに早期胃癌の内視鏡診断については、日本においてこれ以上の進歩は少ないでしょう。しかし、内視鏡治療に関しては、標準化に向けてまだまだやることがあります。

まず、ESDの適応をどこまで拡大できるかということ。これは同時開催のESD研究会で取り上げますが、ESDの長期予後のデータが初めて出てくる。ESDの実績を基に議論が出来るようになったということです。

 そして大きな問題が、治療に行く前の病理診断です。癌が早期になればなるほど病理診断が難しい。そして病理診断は、均てん化がされているようで、ほとんど均てん化されていない。現在、全国的なレベルで、病理診断の標準化を図ろうとしていますが、このあたりも今回の学会でポイントになるでしょう。

早期胃癌の病理診断の“均てん化”はこれからの課題だと指摘する下田氏

――胃癌取り扱い規約に関する公開討論会も予定されていますね。このあたりは先生ならではというか、病理のスタンスが感じられます。

下田 胃癌にせよ他の癌にせよ、病理診断があって初めてその次の治療展開があるわけですから。そういう意味で病理色を出してみました。胃癌の場合は、昔から病理と臨床が一緒になってやってきたから、胃癌学会の会員は病理のことを良く理解してくれている。だから有意義な議論が出来ると思っています。

その他にも、「胃癌における画像診断の進歩」や、「個別化医療に向けた胃癌診断の最前線」といった企画も予定しています。病理診断から最先端の話題、そして診療システムの問題まで、胃癌診療をトータルに考え、標準化のレベルをさらに上げていこうということです。

また、日本と韓国のジョイントセッションが充実しています。韓国は日本で開発された治療法をいち早く取り入れ、例えばESD、EMRは非常にたくさんの経験を積んでおり、抗癌剤S-1の臨床試験などは日本と共同で行っています。これから日本と韓国とがお互いに協力し、多くの情報を世界に発信していくことが出来るでしょう。

──そして、その先にあるのは・・・

下田 今後日本人の胃癌がどう変わっていくかという、大きな問題があります。H.pyloriの感染率がぐっと下がってきていて、20〜30代はせいぜい20〜30%くらい。我々の世代は70〜80%です。非感染世代に移ることによって、癌の質がおそらく変わってくるでしょう。今の欧米の癌と同じような癌が日本でも残ってくるのか、それとも少し違った癌になっていくのか、まだ分からない。恐らく、そういう癌になればなるほど治療が難しい。それをどう早期発見して早期治療するのかということが、日本胃癌学会の大きなテーマとなるでしょう。