東京大学医科学研究所・病院長の今井浩三氏(左)と国立国際医療研究センターの春日雅人氏

 日本糖尿病学会日本癌学会の合同委員会である「糖尿病と癌に関する委員会」が、医師・医療者と国民への提言を含む報告書をまとめた。委員長を務めた国立国際医療研究センターの春日雅人氏が、5月18日まで熊本で開催されていた日本糖尿病学会(JDS2013)で、その内容を報告した。提言では、糖尿病患者において全癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌のリスクが増加したことや、特定の糖尿病治療薬が癌罹患リスクに影響を及ぼすかどうかのエビデンスについては、「現時点で限定的である」ことを記している。

 春日氏はまず、同委員会設立の経緯を説明した。糖尿病と癌罹患リスクの関連については、2010年に米国糖尿病学会(ADA)と米国癌学会(ACS)が合同でコンセンサス・レポートを出している。このレポートは、糖尿病患者では非糖尿病患者と比べて肝臓癌、膵臓癌、子宮内膜症、大腸癌、乳癌、膀胱癌のリスクが上昇する一方、前立腺癌のリスクが減少することや、同時点では糖尿病治療薬を選択する際に癌罹患リスクを主要な検討事項にするべきではないとの見解を示していた。こうした動きを踏まえ、「糖尿病患者と癌患者が増加している日本でも、糖尿病と癌との関連について詳細に調査研究することが望ましいと判断し、合同委員会を設立した」(春日氏)。

 合同委員会は2011年10月に初会合を開き、2013年3月までの1年半に計5回開催した。主に検討したのは、(1)糖尿病と癌罹患リスク・予後、(2)糖尿病と癌に共通の危険因子の疫学的評価、(3)糖尿病治療と癌罹患リスクの疫学的評価――の3つ。今回まとめた報告書には、医師・医療者向けと国民向けの提言もそれぞれ示した。国民への提言は、医師・医療者向けの提言をもとに分かりやすく表現している。

 春日氏は、医師・医療者への提言について順番に解説した。

 まず、日本人糖尿病患者における癌罹患リスクについては、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌のリスクが増加したが、他の癌種については関連がない、もしくは一定の見解が得られなかったと説明した。根拠となったのは、日本人対象のコホート研究8つ(男性15万5345人、女性18万792人)をプール解析した国立がん研究センターがん予防・検診研究センターの津金昌一郎氏らによる研究結果。糖尿病患者の癌罹患リスクは、非糖尿病患者と比べ、男女ともに1.19倍だった。癌種別のハザード比を見ると、肝臓癌が1.97(95%信頼区間:1.65-2.36)、膵臓癌が1.85(1.46-2.34)、大腸癌が1.40(1.19-1.64)だった。

 糖尿病患者で癌罹患リスクが高まるメカニズムとしては、インスリン抵抗性とそれに伴う高インスリン血症、高血糖、炎症などが想定されていると語った。

 また、糖尿病と癌に共通する危険因子には、加齢、肥満、不適切な食事や運動不足などがあるとし、糖尿病が癌罹患リスクと関連している可能性があると指摘。2型糖尿病と癌それぞれの罹患リスクを減少させるため、健康的な食事、運動、体重コントロール、禁煙、節酒を推奨した。

 さらに、糖尿病患者は性別・年齢に応じて適切に癌のスクリーニングを受けることが推奨されるとし、癌種ごとに対象者、実施間隔、検査方法を示した。たとえば、大腸癌のスクリーニングは、40歳以上の男女を対象に、年1回の間隔で、問診と便潜血検査を行うよう求めている。また、肝炎ウイルス陽性の場合は、肝臓癌のスクリーニングを受診するよう勧めた。

 特定の糖尿病治療薬が癌罹患リスクに影響を及ぼすかについては、現時点でエビデンスは限定的であるとし、治療法を選択する際は、添付文書などに示されている使用上の注意に従った上で、良好な血糖コントロールによるベネフィットを優先した治療が望ましいとした。

 今回の提言を含む報告書は、両学会の学術誌とホームページに7月にも掲載される予定。また、両学会は今後も継続的に糖尿病と癌罹患リスクについて検討していく方針だ。

 春日氏は、「今回報告書をまとめたが、糖尿病と癌の関連については、非常に重要な問題なので、今後も引き続き両学会で検討したい」と強調した。また、合同委員会副委員長の今井浩三氏(東京大学医科学研究所・病院長)も、「今回の報告結果を土台として、今後も両学会で細やかに検討し、その都度、新しい情報を提供していきたい。そのためには、特に若い研究者の力が必要で、この領域の研究に励んでもらいたい」と語った。