大阪府済生会吹田病院消化器・肝臓病センターの岡上武氏

 糖尿病患者は肝障害を高率に合併し、肝癌の合併率も高い。そのうち、非アルコール性脂肪肝炎NASH)に由来する肝癌が、男女共に40%前後存在することが推定された。また、NASHの発症・進展に感受性を有する遺伝子も、GWAS(genome-wide association study)によって同定された。大阪府済生会吹田病院消化器・肝臓病センターの岡上武氏が、5月18日まで熊本で開催されていた日本糖尿病学会(JDS2013)で発表した。

 飲酒しないにもかかわらず、アルコール性肝障害に似た病態を呈する非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの患者に多くみられる。NAFLDには、肝硬変に進行することのない単純性脂肪肝とNASHの2種類がある。10年追跡すると、単純性脂肪肝の10〜30%がNASHに進展すると言われる。NASH発症・進展の機序のベースには、インスリン抵抗性や酸化ストレスが関係するため、遺伝的素因の関与も指摘されている。

 肝癌の背景肝疾患は、1990年代ではC型肝炎が圧倒的に多かったが、治療の進歩とともにC型肝炎由来の肝癌は減少し、それに伴って非B型非C型(NBNC)の割合が増加しており、現在では25%ほどがNBNC肝癌と考えられている。NBNC肝癌の主な原因はアルコール摂取によるとされるが、日本人1人当たりの飲酒量は過去20年間でほとんど変化がない。そのため、岡上氏はNBNC肝癌の多くはNASH由来の肝癌ではないかと推定している。

 岡上氏は、厚生労働省のNASH研究班で行った糖尿病患者5642例の解析の結果から、NASHと肝癌の関連を検討した。対象の平均年齢は63.3歳で、男性が3238例だった。1日のアルコール摂取量が60g以上である例は男性6.9%、女性0.9%と男性で高率だった。アラニントランスアミナーゼ(ALT)値は男性30.6 IU/L、女性24.9 IU/Lで、男性において有意に高かった(P<0.001)。血中ヒアルロン酸値(HA)は、男性59.3ng/mL、女性94.6ng/mLで、女性において有意に高値だった(P<0.001)。

 B型肝炎の感染を判定するHBs抗原陽性率は男性1.8%、女性1.6%、C型肝炎ウイルス(HCV)抗体陽性率は男性5.1%、女性5.0%と共に有意差は認めなかった。

 糖尿病患者の肝障害(ALT値31 IU/L以上)に関連する因子を多変量解析によって求めたところ、男女ともに年齢(オッズ比は男性0.674、女性0.767)、血小板数(男性0.806、女性0.714)、HCV抗体陽性(男性1.321、女性1.232)、BMI(男性1.509、女性1.330)で有意差を認めた(いずれもP<0.001)。また、肝癌合併率は男性1.8%、女性0.9%で、男性において有意に高率だった(P=0.017)。これらの結果から、糖尿病患者は高率で肝障害を合併しており、肝癌合併頻度も高いことが示された。

 肝癌合併糖尿病患者の背景肝疾患は、男性においてはHCV感染48.8%、HBV感染9.8%、アルコール性4.9%で、NASH由来と思われる例は36.6%だった。女性では、HCV感染52.9%、HBV感染5.9%で、NASH由来と思われる例が41.2%で、NASH由来と思われる例の割合がさらに高かった。肝障害の80%以上はNAFLDおよびNASHに起因するが、肝癌の半数以上は肝炎ウイルス感染が原因で、NASHに起因する肝癌は男女共に40%前後と推定された。

 さらに、NASHの発症・進展感受性遺伝子を同定するため、NAFLD患者529例にGWASを施行した。NASHの診断時に基準とされるMatteoni分類を用いてNAFLD患者を解析すると、典型的NASHであるMatteoni type 4のみが染色体上22q13PNPLA3上のrs7384094と有意な関連を認めたため、NASHの発症・進展には遺伝的素因が関与することが示唆された。