九州大学大学院環境医学分野の清原裕氏

 福岡県久山町の地域住民に対する健診データを用いて追跡研究を行った久山町研究の結果から、高血糖および糖尿病癌死亡の相対危険度を上昇させることが分かった。また胃癌の発症リスクは、ヘリコバクター・ピロリ感染と高血糖が合併すると、どちらか単独の場合よりも上昇することも示された。九州大学大学院環境医学分野の清原裕氏が、5月18日まで熊本で開催されている日本糖尿病学会(JDS2013)で発表した。

 今回は、久山町の健診を受診した40歳以上の住民のうち、1961年に受診した1618人、1974年に受診した2038人、1988年に受診した2637人、2002年に受診した3123人の追跡調査の結果を示した。

 各受診年次群における代謝性疾患の頻度を、40歳以上の男性に限り年齢調整して比較した。BMIが25.0kg/m2以上となる肥満の頻度は、1961年の7%から、年次が上がるごとに増加しており、特に2002年の受診群では29%と有意に増加していた(P for trend<0.01)。同様に、総コレステロール値が220mg/dL以上となる高コレステロール血症、糖代謝異常も、2002年受診群では有意に増加していた(いずれもP for trend<0.01)。女性でも同様の傾向がみられた。

 40歳から79歳までの住民において、耐糖能レベルをWHOの診断基準に沿って分類し、その頻度を1988年受診群(2490人)と2002年受診群(2779人)で比較した。結果、1988年の男性において15.0%だった糖尿病が23.6%に、耐糖能異常(IGT)も19.2%から21.6%に、空腹時血糖異常(IFG)も8.0%から14.7%にそれぞれ増加していた。女性でも同様で、約4割がなんらかの糖代謝異常を有していた。

 1988年の健診を受診した40歳から79歳の住民のうち、75g経口糖負荷試験を受けた2438人を19年間追跡したデータから、空腹時血糖値別にみた悪性腫瘍死の相対危険度を、性別と年齢で調整して求めた。空腹時血糖値ごとに、100mg/dL未満群、100mg/dL以上109mg/dL未満群、110mg/dL以上125mg/dL未満群、126mg/dL以上群の4分位に層別化した。100mg/dL未満群の相対危険度を1.0とした場合、空腹時血糖値が高くなるにつれて相対危険度は有意に上昇した。同様に、耐糖能レベルと悪性腫瘍死の相対危険度をみると、耐糖能レベルが悪化するにつれて相対危険度は有意に高まり、正常群の相対危険度を1.0とするとIFGとIGTは1.4、糖尿病は1.9となった。

 また、全癌累積死亡率も耐糖能レベルが悪化するに従って有意に上昇した。さらに糖尿病の中でも、新規に診断された糖尿病より既に診断されていた糖尿病の方が全癌死亡率が高かった。このことから、罹病期間が長い、もしくは重症である糖尿病患者のほうが全癌死亡率が高まることが示唆された。

 次に、血糖値と部位別の癌死亡リスクを検討したところ、空腹時血糖値100mg/dL未満の相対危険度を1.0とした場合、100mg/dL以上は胃癌死亡リスクが2.13と有意に高かった(P=0.04)。

 さらに、空腹時血糖値別にみた胃癌発症の相対危険度を、性別、年齢で調整して検討した。95mg/dL未満の相対危険度を1.0とした場合、95mg/dL以上104mg/dL未満は2.3、105mg/dL以上は3.0といずれも空腹時血糖が上昇すると有意に相対危険度が高まった(P<0.05)。またHbA1c(JDS)値別にみると、5.0%以上6.0%未満の相対危険度を1.0とした場合、6.0%以上7.0%未満は2.0、7.0%以上は2.5と有意に胃癌発症の相対危険度が上昇しており(いずれもP<0.05)、血糖値と胃癌発症の相対危険度には密接な関連があることが示された。さらに、糖尿病域よりも低い血糖値であっても胃癌発症リスクが上昇していた。

 胃癌はヘリコバクター・ピロリ感染が主な原因と言われるため、ヘリコバクター・ピロリ感染と高血糖では胃癌においてどちらの影響の方が大きいのか、ヘリコバクター・ピロリ感染の有無と高血糖(HbA1c値6.0%以上)の有無で、胃癌発症の相対危険度を検討した。非感染で高血糖もない群の相対危険度を1.0とした場合、高血糖のみ有する群の相対危険度は0.82と低かった。また、感染のみ有する群の相対危険度は1.57と高まったものの有意差は認めなかった。しかし、感染かつ高血糖を有していた群の相対危険度は3.48と有意に高まった(P<0.001)。つまり両者が合併すると胃癌の発症リスクはさらに高まることが示された。