九州大学病態制御内科学の夏秋千晴氏

 糖尿病患者において、足関節上腕血圧比ABI)は、末梢動脈疾患PAD)と診断される0.9未満のみならず、境界値である0.9以上1.0未満も全死亡の独立した予後予測因子となることが示された。多施設での前向き大規模臨床研究である九州動脈硬化予防研究のデータを用いた解析の結果、明らかになった。九州大学病態制御内科学の夏秋千晴氏が、5月16日から熊本で開催されている日本糖尿病学会(JDS2013)で発表した。

 ABIは、PADの診断・評価において簡便で再現性の高い動脈硬化度指標だ。また、心血管死の発生予測因子としても注目されている。一方、糖尿病患者はPADおよび心血管死のリスク保持者だ。今回夏秋氏らは、糖尿病患者において、ABIが生命予後およびPADの発症に及ぼす影響を明らかにするため、多施設での前向き大規模臨床研究である九州動脈硬化予防研究のデータを基に解析を行った。

 対象は、同研究の登録者のうち、登録時にABIを測定した糖尿病患者3984例(61.0歳、男性59.4%、BMI 24.6kg/m2、HbA1c[JDS]7.8%)とした。平均観察期間は3.26年だった。

 ABIのPAD診断値は、米国糖尿病学会(ADA)がABI 0.9未満の場合と示している。また、米国心臓学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)が発表したガイドラインでは、ABI 0.91超0.99以下を境界値とすることが明記されている。そこで夏秋氏らは、登録時のABIが0.9未満だった例をabnormal群(340例、男性55.3%)、0.9以上1.0未満をborderline群(347例、54.2%)、1.0以上をnormal群(3297例、60.4%)とした。

 各群の患者背景としては、年齢、高血圧合併率、糖尿病網膜症合併率、糖尿病神経障害合併率、糖尿病腎症合併率、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)もしくはアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)使用率、抗血小板薬もしくは抗凝固薬使用率などが、ABI低値である群ほど有意に高かった。

 登録全期間における全死亡の累積発生率をカプランマイヤー法により解析したところ、ABI低値の群ほど有意に累積死亡率が高かった(Log-rank P<0.0001)。2群間での累積死亡率を比較すると、abnormal群とborderline群では有意差が認められなかった(Log-rank P=0.10)が、borderline群とnormal群では有意にborderline群で累積死亡率が高かった(Log-rank P=0.0001)。

 登録全期間における心血管死の累積発生率でも、全死亡と同様に、ABI低値の群ほど有意に累積発生率が高かった(Log-rank P=0.04)。ただしabnormal群では最初の発生を認めたのが登録開始から2.5年後で、normal群とabnormal群では有意差が認められなかった(Log-rank P=0.08)。normal群とborderline群の比較では有意にborderline群の累積発生率が高かった(Log-rank P=0.02)。

 Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析にて、normal群に対するborderline群、normal群に対するabnormal群の全死亡リスクを検討すると、それぞれハザード比(HR)が1.77(95%信頼区間[CI]:1.14-2.66、P=0.01)、2.20(95%CI:1.49-3.22、P=0.0001)で、いずれも有意に高いハザード比を示した。

 同様に、各危険因子のハザード比を多変量解析にて検討したところ、年齢の10歳上昇(HR:1.27、95%CI:1.09-1.48、P=0.002)、男性(HR:1.38、95%CI:1.01-1.90、P=0.04)、糖尿病腎症(HR:1.56、95%CI:1.12-2.15、P=0.008)が有意に高かった。

 登録全期間におけるPAD累積発生率をnormal群とborderline群で比較したところ、borderline群で有意に高い発生率を認めた(Log-rank P<0.0001)。

 これらの結果から夏秋氏は、「ABIは異常値の0.9未満のみならず、境界値の0.9以上1.0未満であっても全死亡の独立した予後予測因子となる」と結論した。また、「borderline ABI患者はnormal ABI患者と比べて有意にPAD発症率が高かった。簡便で非侵襲的なABI測定は、リスクが高い糖尿病患者のスクリーニングおよび管理指標として有用だ」と考察した。