Novo Nordisk社のJacob Hyllested-Winge氏

 開発中の超持効型インスリン製剤であるインスリン デグルデク(以下、デグルデク)は、既存製剤と比較して低血糖の発現頻度が少ないことが複数の研究で報告されている。この低血糖の発現頻度が少ないことが、糖尿病患者の健康関連QOLにも好影響を与える可能性があることが報告された。英国Newcastle大学のHome PD氏らがまとめた研究結果で、5月17日から19日まで横浜で開催された第55回日本糖尿病学会(JDS2012)においてNovo Nordisk社のJacob Hyllested-Winge氏が報告した。

 糖尿病治療において、血糖値のコントロールには適切な治療とともに、治療継続性を確保するために、糖尿病患者の治療に対する信頼を確立し、アドヒアランスを低下させないことが重要になる。その一方で、治療法の煩雑さや厳格さによるストレス、あるいは低血糖や注射手技への恐怖感が、患者の健康関連QOL(HRQoL)に悪影響を与えることも知られている。特に低血糖は、治療に対するアドヒアランスやHRQoLを低下させる重大なリスクであることが示唆されている

 超持効型インスリン製剤であるデグルデクの1型糖尿病患者に対する有効性と安全性が、インスリン グラルギン(以下、グラルギン)を対照に16週にわたり比較検討され、その結果が2011年に論文発表されている(Birkland et al. Diabetes Care, 2011;34:661-665)。この検討では、デグルデクが血糖コントロールにおいてグラルギンとの同等性を示すとともに、夜23時から翌朝5時59分までの確定夜間低血糖(血糖値56mg/dL未満または第3者による処置を必要とするもの)を、グラルギンに対してハザード比0.42(95%信頼区間[CI]:0.25−0.69)で減少させ、全確定低血糖もハザード比0.72(95%CI:0.52−1.00)で減少させることが示唆された。

 Hyllested-Winge氏らは今回、このデグルデクの試験の副次評価項目として解析されたHRQoLに関するデータを抽出し、報告した。

 対象は、12カ月以上の罹病歴を有する1型糖尿病患者118人。平均年齢45.8歳、HbA1cは平均8.4%、BMIは平均26.9kg/m2だった。これらの患者はグラルギン1日1回夕方投与59例と、デグルデク1日1回夕方投与59例に、無作為割り付けされていた。両群ともに、食事時にインスリン アスパルトが追加投与されていた。

 HRQoL はSF-36問診票(version2)を用いて評価された。SF-36は(1)身体機能、(2)日常役割機能、(3)体の痛み、(4)全体的健康感、(5)活力、(6)社会生活機能、(7)日常役割機能(精神的な部分)、(8)心の健康の8つの下位尺度で構成され、(1)〜(4)は身体的健康度(Physical Component Summary:PCS)、(5)〜(8)は精神的健康度(Mental Component Summary:MCS)を表す。患者は、質問票に関する説明を受けたあと1人で回答を記入する。回答記入後、質問票は封筒に封入され、解析まで他者が内容を読むことはできない。

 ベースラインと試験終了時にSF-36問診票による調査を実施し、HRQoLの変化を解析した。16週後の身体関連全体のPCSスコアでは、0.26の改善を示したデグルデク群が、−0.41となったグラルギン群に対し、スコアで0.66(95%CI:−2.30〜3.62)上回ったが、統計学的有意差は認めなかった。

 精神関連全体のMCSスコアでは、1.88の改善を示したデグルデク群が、−1.13となったグラルギン群に対し、スコアとして3.01(0.32〜5.70)高く両群間に有意差が認められた(P<0.05)。この2群間の違いに寄与したのが、社会生活機能(5.20 対 −2.84)で、8.04(1.89〜14.18)有意に高く(P<0.05)、心の健康(1.39 対 −1.07)でも2.46有意に高かった(P<0.05)。

 Hyllested-Winge氏は本検討の結果について「デグルデクは、低血糖の発現頻度が既存インスリンに比べて少ないことが報告されている。そのことが、HRQoLの差に寄与した可能性がある。社会生活機能は患者の日常生活において身体的にも精神的にも影響が大きいが、デグルデクでは低血糖の不安や影響が少ないことから、社会生活機能などの改善が期待できる結果だった。今回の検討は症例数が少なく、SF-36も糖尿病やインスリン療法に特化した質問票ではないため、より精度の高いツールを用いた大規模な検討の実施が望まれる」と総括した。

(日経メディカル別冊編集)