東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科の横田太持氏

 低血糖認識低下状態を呈するIAHImpaired awareness of hypoglycemia)患者の認知機能について検討した結果、アンケート方式によりIAHと診断した患者の半数以上は、血糖自己測定(SMBG)の結果からIAHではないと予想していた患者が含まれていた。また、IAH患者の年齢、糖尿病罹病期間はともに、海馬の萎縮に関連するスコアと正の相関関係が確認された。東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科の横田太持氏らが、5月17日から19日まで横浜で開催された第55回日本糖尿病学会(JDS2012)で発表した。

 IAHに関しては、年齢、糖尿病罹病期間、重症低血糖との関連が示唆されているほか、2回以上の重症低血糖の既往のある患者では、認知症発症リスクが高まるとした報告がある。そこで横田氏らは、同科通院中のインスリン治療中の糖尿病患者のうち、SMBGを行っている1型糖尿病患者とインスリン治療中の2型糖尿病患者を対象に、IAHを識別するためのClarke WL.のアンケート方式によってIAH患者を抽出し、糖尿病のコントロール状況、合併症の程度、認知機能との関連について検討した。

 Clarke WL.のアンケート方式は、低血糖時の症状の有無や血糖値、重症低血糖の頻度などについて8つの質問から構成されている。IAHの可能性がある回答が4項目以上あった場合に、IAHと診断する。また、過去1年間に意識消失や痙攣を起こし、グルカゴン注射やブドウ糖静脈注射を必要としたことが12回以上あった場合は、無自覚性低血糖と分類する。

 IAHと診断された患者のうち、50歳以上の患者に対しては、認知機能検査のMMSEとともに、頭部MRI画像を使用してアルツハイマー型認知症を診断する診断支援ソフトVSRADを用いて海馬の委縮に関連するZスコアを算出し、患者年齢、糖尿病罹病期間、合併症との関連について検討した。IAHのアンケート用紙は101人の患者に配付し、有効回答数は83人だった。

 解析の結果、IAHと診断されたのは12人だった。そのうち5人は、SMBGの結果をもとにした予想結果と一致していたが、7人はSMBGの結果からIAHでないと予想していた患者だった。また、SMBGによる結果からIAHと予想したが、アンケート方式による診断でIAHが否定された患者は5人いた。

 IAH患者年齢とMMSEの結果の関連を調べたところ、強い相関関係は認められなかった。しかし、MMSEの項目別に見ると、遅延再生と計算(注意力)での異常が、比較的多く確認された。

 IAH患者の年齢、糖尿病罹病期間は、海馬の萎縮に関連するZスコアとの間に強い正の相関関係が確認された。一方、Zスコアは、糖尿病神経障害(自律神経検査、振動覚)、糖尿病腎症(推算糸球体濾過量、尿中アルブミン)、IMTとの間には相関関係が見られなかった。

 横田氏は、アンケート方式によって診断したIAH患者と、診療でSMBGの結果をもとに想定したIAH患者には不一致例が数名いたことについて、「日本において、アンケート方式によるIAH診断が最適であるかについては、今後検討する必要がある」と指摘した。

 また、今回IAHと診断した全患者は、認知症と診断されていないことから、「IAHと診断された患者を対象に、経年的にZスコア、MMSEを調べ、実際に認知機能低下が起こるかを観察する必要がある」と述べた。

(日経メディカル別冊編集)