たねだ内科クリニックの種田嘉信氏

 地震津波などによる直接的な被害は少なかったものの、原発事故などにより避難した糖尿病患者では、薬を余分に持っていたこととお薬手帳を携帯していたことが治療の継続に有用だったと、患者へのアンケート調査から明らかになった。たねだ内科クリニック(福島県いわき市)の種田嘉信氏らが、5月17日から19日まで横浜で開催された第55回日本糖尿病学会(JDS2012)で発表した。

 同クリニックが所在する福島県いわき市は、東日本大震災の発生後、原発事故による影響を大きく受けた地域。水道などのインフラや食料の供給などが滞ったのが特徴だ。今回種田氏らは、このような状況が糖尿病患者の血糖コントロールに与えた影響について、患者へのアンケート調査を基に検討した。

 対象は、同クリニックに通院中の糖尿病患者のうち、震災前は安定した血糖コントロールを得ていた580例(男性351例、年齢64.5歳)とした。震災前の随時血糖は157.1mg/dL、HbA1c(NGSP値)は7.1%、体重は66.2kg、BMIは24.6kg/m2だった。治療法は、食事療法のみが14例(2.4%)、経口血糖降下薬が379例(65.3%)、インスリンが187例(32.2%)だった。

 被害状況については、地震による被害は52.0%が受けた(全壊2.6%、半壊10.7%、一部損壊38.7%)。津波による被害は96.5%が受けなかったが、原発による被害は40.0%が受けたと回答した(20km圏内0.9%、30km圏内1.2%、30km圏外自主避難37.9%)。避難状況に関しては、半数の49.8%が避難したと答え、避難日数は1日以上7日以内が26%、8日以上14日以内が27%、15日以上30日以内が29%、31日以上60日以内が10%、61日以上が8%だった。

 治療の継続率を見ると、インスリン治療は95%、経口血糖降下薬は92%だった。継続できた理由としては、「薬を持っていた」との回答がインスリン57%、経口血糖降下薬56%で、いずれも半数以上を占めた。また、「避難先でもらった」(インスリン13%、経口血糖降下薬17%)、「薬局で直接もらった」(インスリン11%、経口血糖降下薬9%)と回答した患者は、お薬手帳などが役立ったという。反対に、治療が継続できなかった理由としては、「治療への意欲が失せた」、「インスリンを人前で打てなかった」、「経口血糖降下薬の服用を忘れていた」などが挙げられ、心理的な原因が少なくなかった。

 HbA1cの推移を避難の有無別に分けると、避難しなかったグループは震災前7.22%、震災1カ月後7.22%と変化がなかったが、3カ月後7.14%となり、震災前に比べ有意に低下した(P<0.01)。避難したグループでは、震災前の7.05%に比べ、1カ月後7.00%、3カ月後6.93%と、いずれも震災前に比べ有意に低かった(P<0.01)。

 運動継続の可否別にHbA1cの推移を見ると、震災後も継続して運動ができたグループは震災前7.09%、1カ月後6.97%、3カ月後6.82%で、震災前に比べ、いずれも有意に低下していた(P<0.01)。もともと運動していないグループは、震災前7.18%、1カ月後7.14%、3カ月後7.02%と、3カ月後のみ震災前より有意に低下していた(P<0.05)。一方、運動が継続できなかったグループは、震災前7.15%、1カ月後7.16%、3カ月後1.30%と、やや増加傾向にあった。

 震災3カ月後においてHbA1cが0.5ポイント以上増加した例を悪化群(54例)、0.5ポイント以上低下した例を改善群(81例)、0.5ポイント未満の変化であった例を不変群(384例)とし、血糖コントロールの悪化・改善に関する背景因子を検討した。その結果、悪化群では不変群、改善群に比べ、震災前の血糖値とHbA1cが有意に高いという特徴があった(P<0.01)。一方、改善群は3カ月間で体重が0.45kg減少していた。体重減によりインスリン抵抗性が低減され、血糖コントロールが改善したと考えられた。

 以上の結果を踏まえ種田氏は、「震災前の血糖コントロールが不良だった患者は、震災などで生活習慣が変化した場合にコントロールがさらに悪化すると考えられる」と結論した。また、地震や津波などによる直接的な被害は少なかったものの、原発、ライフライン、余震などさまざまなストレスが原因で、49.8%の患者が避難した。その際、「薬を余分に持っていたこと、お薬手帳を携帯していたことが治療の継続に有用だった」と語った。

(日経メディカル別冊編集)