東北大学分子代謝病態学分野の児玉慎二郎氏

 東北大学分子代謝病態学分野児玉慎二郎氏らは、東日本大震災後に避難所糖尿病巡回診療を行った経験から、災害時における糖尿病診療の問題点を指摘するとともに、その対応策を提案した。5月17日から19日まで横浜で開催中の第55回日本糖尿病学会(JDS2012)で発表したもの。震災から1週間後までは高血糖と低血糖の両方が起こる状況にあり、糖尿病ケトアシドーシスの治療に超速効型インスリンの皮下注射が有効であったことなどを報告した。

 東北大学病院糖尿病代謝科が中心となったチームは、2011年3月下旬から7月中旬まで週に2、3回、糖尿病巡回診療を行った。チームは医師、看護師、ボランティア学生から構成され、自家用車を用いて避難所や被災者宅を訪問。巡回診療は、最大避難者数が約11万人、最大避難所数が約180カ所以上だった宮城県石巻市を中心に実施した。目的は、被災者の血圧・血糖値の測定、内服薬やインスリン量の調整、食事回数に応じた治療法の変更、インスリンや自己血糖測定器の提供、低血糖や持続する高血糖の予防だった。

 糖尿病巡回診療の実施スキームは以下のとおり。まず拠点病院である石巻赤十字病院の災害医療コーディネーターに糖尿病巡回診療の実施を提案。それを受け、拠点病院が各地区の保健師に巡回チームの存在を伝え、保健師は拠点病院に糖尿病患者の避難状況を報告する。その報告を受けた拠点病院から巡回診療の依頼が来る仕組みとした。

 巡回チームは、大学病院や各企業からインスリン、自己血糖測定(SMBG)機器、注射針、ブドウ糖などの提供を受けた上で、拠点病院に物資を提供しつつ、保健師と連絡を取りながら巡回診療を行った。

 巡回診療時にはいろいろ工夫したという。たとえば、他の医療チームと情報を共有するため、拠点病院で保管しているカルテを利用。記入したカルテはデジタルカメラで撮影し、情報を共有した。患者に対しては、低血糖についての注意書きなどをまとめた資料を配った。内服薬の調整について解説したものも作成し配布している。各地区の医療チームや保健師とミーティングを重ねたことで、糖尿病の専門診療が必要な患者の避難状況、各避難所での食料事情や医療物資の在庫、道路状況などの情報提供を受けられた。

 震災直後から1週間後までの超急性期においては、インスリン注射の一式を津波で流されたり、食べ物がなかったりしたため、治療を中断したことで高血糖昏睡が起きていたことが明らかになった。また、この時期における糖尿病ケトアシドーシスの治療として、速効型インスリンの点滴静注ではなく、超速効型インスリンの皮下注射を実施。糖尿病ケトアシドーシスが超速効型の皮下注射によって治療できるとの報告は過去に多くなされており、今回の震災直後も大変有用だった経験から、「災害時・緊急時に最も重宝するインスリン製剤は超速効型だ」と児玉氏は強調した。

 一方で、食べ物がなくても平時と同量のインスリンを注射したり、血糖降下薬を内服したことによる低血糖昏睡も発生していた。これらを踏まえ、超急性期には糖尿病ケトアシドーシスや低血糖といった急性の代謝失調を予防するためにインスリン製剤を速やかに供給すること、また、患者自身にインスリン注射を中断することは危険であるという認識を持ってもらうために、平時から患者へのインフォームド・コンセントが重要であると述べた。さらに、低血糖を起こす可能性がある薬剤や副作用が出現する可能性が高い薬剤は慎重に投与するべきとの考えを示した。

 児玉氏は巡回診療の経験を基に、「地域の中核病院のマネジメントが重要であり、平時から保健師やコメディカルとのネットワークを構築していることが大切だ。全国的にこうしたシステムの構築が望まれる」と語った。

(日経メディカル別冊編集)