日本糖尿病学会理事長の門脇孝氏

 日本糖尿病学会がアクションプランであるDREAMSを発表したのは、2010年。今回の第55回学術集会は、ちょうど5カ年計画の中間点を迎える節目での開催となった。日本糖尿病学会理事長の門脇孝氏は、5月17日午前に行われたセッション「理事長声明」の中で、DREAMSのこれまでを振り返り、個々の項目ごとに取り組みの現状と成果を総括。DREAMSの先にある最終目標は、「Breaking up with Diabetes(糖尿病よ、さようなら)」であると言及した。

 日本糖尿病学会アクションプラン2010(通称、DREAMS)は、学会が2009年に定めた第2次対糖尿病戦略5カ年計画に基づいて、具体的な活動目標を掲げたものだ。(1)糖尿病の早期診断・早期治療体制の構築(Diagnosis and Care)、(2)研究の推進と人材の育成(Research to Cure)、(3)エビデンスの構築と普及(Evidence for Optimum Care)、(4)国際連携(Alliance for Diabetes)、(5)糖尿病予防(Mentoring Program for Prevention)、(6)糖尿病の抑制(Stop the DM)の6項目からなり、それぞれの英語の頭文字をとってDREAMSと称されている。

 門脇氏は、「DREAMS(夢)の実現に向けて」と題して講演。「糖尿病に対する総合的な対策を講じることは国家的な急務」との認識のもとに、第2次対糖尿病戦略5カ年計画を策定し、さらにDREAMSをスタートさせたと振り返った。その上で、DREAMSが掲げた6項目ごとに進捗状況を整理し、これまでの成果を総括した。

 たとえば(1)の糖尿病の早期診断・早期治療体制の構築では、糖尿病診断基準に関する調査検討委員会(委員長・日本糖尿病協会理事長の清野裕氏)が精力的に動き、HbA1c国際標準化を成し遂げたと指摘。清野委員長の国際標準化の決断を称えた。

 門脇氏は、この4月1日から実施となったHbA1c国際標準化は大きな成果の1つと強調。「わが国の糖尿病臨床・研究・治験のさらなる国際化が期待される」と指摘した。その一方で国内に向けては、「今回の国際標準化を機に、診療におけるHbA1cの認知向上につなげていかなければならない」とも語り、学会会員の奮起を促した。

 また(2)の研究の推進と人材の育成では、東日本大震災からみた災害時の糖尿病医療体制構築のための調査研究委員会(委員長・岩手医科大学の佐藤譲氏)が、患者向けおよび医療従事者向けに糖尿病に関する災害時対応マニュアル作成を加速させていることを紹介。加えて、新たに特別調査研究事業として、糖尿病と癌に関する合同委員会(委員長・国立国際医療研究センター研究所の春日雅人氏)が立ち上がったことも取り上げた。同委員会では、糖尿病罹患と癌発症リスク、糖尿病治療と癌発症リスクなどの疫学的評価を行うとともに、糖尿病患者の癌スクリーニング指針を策定し、さらに糖尿病と癌の予防法の提言することを目標に活動を展開するという。

 (3)のエビデンスの構築と普及では、糖尿病予防のための戦略研究(J-DOIT2)の成果を提示した。門脇氏は、J-DOIT2において、患者への受診推奨だけでなく、これに療養指導、さらにかかりつけ医への診療支援などを総合的に展開することで、受診中断率を63%も抑制できることを証明できた点を強調した。

 その上で、J-DOIT2に次いで始まったJ-DOIT3の概要を解説。J-DOIT3では、強力な生活習慣への介入と危険因子に対する総合的治療が、糖尿病患者の健康寿命やQOLをどれだけ改善するかを検討しているとし、これまでの登録例についてHbA1cの推移などのデータを例示した。その中で、「重症低血糖は2例のみでありACCORD試験の200分の1にとどまっている」点を挙げ、「糖尿病治療で世界発のエビデンスを創出できるのではないか」(門脇氏)との期待を表明した。

 なお、エビデンスに関連して、ADA/EASDが最近発表した新ポジションステートメントに着目し、メトホルミンをすべての患者で第1選択薬とした点や第2選択薬(併用薬)を病態別にしていない点などを挙げ、「必ずしも患者中心、あるいは病態を踏まえた薬剤選択のアプローチとは言い難い」との見解を示した。

 これに対し、日本糖尿病学会の治療ガイド委員会がまとめた「糖尿病治療ガイド2012-2013」では、2型糖尿病の病態に応じた経口血糖降下薬の選択を示している点を強調。今後さらに病態解明を進め、経口血糖降下薬別の臨床的エビデンスの集積を行い、病態ごとの「テーラーメイドのアルゴリズム作成を検討課題としたい」と表明した。

 このほか、(6)の糖尿病の抑制では、唯一数字目標を掲げている点に言及。具体的には、2015年の時点で糖尿病患者数の増加を減少に転じさせ、2015年の時点で糖尿病関連の死亡者数を現在より減少させると定めていることを再確認した。

 この数字目標の実現に向け、たとえば日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会の三者で設立した糖尿病対策推進会議が主導し、検診受診の促進と事後指導による一次予防、糖尿病管理の質の向上と受療継続の推進、さらには病身連携の推進に取り組んでいるとした。また、日本糖尿病協会と連携し、「サイエンスとヒューマニズムの架け橋となる糖尿病学・糖尿病医療の発展に努めていることも示した。

 ただ、DREAMSを打ち出す最大の理由となった糖尿病有病率の増加については、今年1月に発表された平成22年国民健康・栄養調査の結果を見る限り、「年齢未調整ながら、今なお増加していることが示された」と懸念を示した。DREAMSがスタートした年の結果であり、DREAMSの成果が直接には反映されていない数字ではある。だが、糖尿病有病率が増加し続けているということであれば、行動計画を加速させなければならない事態となる。

 その一方で門脇氏は、透析導入患者数が2年連続で減少し、さらに糖尿病性腎症が原因で透析を開始する患者の割合が2010年に前年より1ポイント減少した点は明るいニュースと語り、「日常診療の取り組みが功を奏した結果ではないか」と評価した。

 最後に門脇氏は、現状は「Living with Diabetes(糖尿病とともに生きる)」が大事であり、「糖尿病患者さんが人生を謳歌できる医療の開発・提供、そして社会基盤の整備」が大きな課題とした。そのためにもDREAMSの実現が重要であるわけだが、門脇氏の視線はさらなる高みに向けられていた。DREAMSの先にある「Breaking up with Diabetes(糖尿病よ、さようなら)」こそが最終目標であり、これを達成するために引き続き根本的な糖尿病の予防・治療法の開発に取り組む必要があると説き、今学会での議論の展開に期待を示し講演を締めくくった。

(日経メディカル別冊編集)