順天堂大学大学院代謝内分泌内科学の弘世貴久氏

 2型糖尿病において血糖を厳格にコントロールし、将来の血管合併症のリスクを抑制するためにはインスリン治療は欠かせないが、実地臨床では解決すべき課題は多い。札幌で開催された日本糖尿病学会JDS2011)において、順天堂大学大学院代謝内分泌内科学弘世貴久氏(写真)が講演を行い、経口血糖降下薬併用時の有効性、インスリン治療の導入法、インスリンを高用量で使用することの意義など、実地診療に携わる臨床医が直面する課題について最新の知見を交えながら解説した。

 最初の論点として弘世氏は、「2型糖尿病のインスリン療法において経口血糖降下薬の併用は有用か」を挙げた。同氏らの検討では、Basal supported Oral Therapy(BOT)を受けているが血糖コントロール不良の2型糖尿病患者にαグルコシダーゼ阻害薬(ミグリトール)を追加投与したところ、HbA1c値は有意に改善し、食後高血糖が改善した。

 またACTION-Jでは、インスリンにチアゾリジン薬(ピオグリタゾン)あるいはそれ以外の経口血糖降下薬を併用した時の有効性が比較検討されたが、チアゾリジン群では対照群に比べてHbA1c値が有意に低下し、インスリン使用量、投与回数も有意に低下した。体重は有意に増加したが、増加の程度は限定的で、塩分制限をしっかりと行ったため浮腫の発現頻度も低かった。なお、動脈硬化指標の頸動脈内膜中膜肥厚(IMT)はピオグリタゾン群で有意に低下したものの群間差は認められなかった。

 SU薬とインスリンとの併用は保険適応ではないが、実地臨床では併用されることも少なくない。弘世氏らは、混合型インスリン製剤とグリメピリドを併用しても血糖コントロール不良の2型糖尿病患者を対象に、混合型インスリン製剤の単位数を2倍に増やし、グリメピリドを継続あるいは中止した時の血糖コントロールを比較検討した試験を実施している。その結果、インスリン単位数を増やしたにもかかわらず、グリメピリド中止群では継続群に比べてHbA1c値が有意に悪化した。そのため、インスリンを増量してもSU薬はすぐに中止する必要はなく、血糖コントロールがある程度落ち着いてから中止する方がよいと考えられる。

 こうした知見に基づき弘世氏らは、インスリンで血糖コントロール不良の2型糖尿病患者を対象に、グリメピリドあるいはSU薬以外の経口血糖降下薬を併用した場合の血糖コントロール、頸動脈IMTを評価するSTART-Jを進めている。

 第2の論点として弘世氏は、「2型糖尿病患者にインスリンを導入する際に、基礎(Basal)と追加(Bolus)、どちらから開始すべきか」を挙げた。

 英国のHolman氏らが実施した4T Studyでは、経口血糖降下薬を2剤服用中の2型糖尿病患者を、混合型(低用量を1日2回)、Bolus(1日3回)、Basal(1日1〜2回)の3つのインスリン療法群に割り付け、1年間投与した。その結果、HbA1c値の低下度はBolus、混合型、Basalの順に良好だったが群間差はなく、低血糖の頻度は同様の順番で高かった。

 本試験では1年経過後に血糖コントロール不良の場合はインスリン療法が強化され、混合型で開始した群では昼食前にBolusを追加、Bolusで開始した群ではBasalを追加、Basalで開始した群ではBolus(1日3回)を追加して、さらに2年間追跡された。その結果、3年後にHbA1c値が 7.0%未満を達成した患者の割合は、Basal開始群およびBolus開始群では混合型開始群に比べて有意に良好だった。このことから弘世氏は、インスリン療法はBasalあるいはBolusで開始し、Basal-Bolusに移行するのが望ましいと述べた。

 日本におけるインスリン療法は、入院下で、経口血糖降下薬を中止し、低用量のBolusで開始するのが一般的だが、欧米ではBasalで開始してBasal-Bolusに移行することが多い。では、どちらの導入法が優れているのだろうか。

 4T StudyのBolus開始群ではBasal開始群に比べて体重増加や低血糖の発現頻度が高かった。BasalとBolusの用量比はBolus開始群では28:72、Basal開始群では42:58だった。このことから弘世氏は、Bolus開始群ではBolusで投与するインスリンの割合が多いことが体重増加や低血糖の発現に影響を及ぼした可能性があると指摘した。

 弘世氏らが実施したJUN-LAN Study 6では、Basalインスリンの割合を増やすことで、総インスリン投与量は同じでも、血糖コントロールが改善することが明らかになっており、その後のJUN-LAN Study 7では、グラルギンとSU薬で血糖コントロール不良の2型糖尿病患者に超速効型インスリン製剤を追加することでHbA1c値は有意に改善した。こうした知見から同氏は、日本人においてもインスリン療法はBasalで導入して、Basal-Bolusに移行する方が望ましいとした。

 理由としては、十分量の基礎インスリンを補うことで内因性および外因性の追加インスリンを効率よく働かせることができること、Basalから開始した方がその適量を決めるのが容易なことを挙げた。その上で、日本ではインスリン療法はBolusで導入されることが多いが、良好な血糖コントロールが得らない場合にはBasalの導入を躊躇しないことも重要だと指摘した。

 弘世氏はまた、最近の注目すべき知見として、果物をむいたり、お菓子を食べた後で自己血糖測定を行うと、血糖値が著しく高くなることを報告した研究を紹介し、適切な強化インスリン療法を実施するためには測定前に手洗いを敢行することが重要だと述べた。

 最後の論点として弘世氏は、「高用量のインスリンを使用して血糖コントロールを達成することの是非」を挙げた。強化インスリン療法は、高インスリン血症を引き起こし動脈硬化を進行させるのではないか、血糖値に合わせてインスリンを増量していくと高度肥満を誘引するのではないかという懸念がある。

 しかし、2型糖尿病患者で強化インスリン療法の有効性を実証したUKPDS33では、SU薬は欧米の最高用量(グリベンクラミド20mg)まで、インスリンは平均で24単位/日、BMI25以上の肥満傾向がある患者では60単位/日を使用していた。その結果は周知だが、強化インスリン群では体重は増加し、高インスリン血症が持続したが、細小血管障害のリスクが低下し、試験終了後の長期追跡では大血管障害や死亡のリスクも低下した。このことから弘世氏は、血糖コントロールが不良の患者では高用量のインスリンを使用するべきだと論じた。

 講演の最後に弘世氏は、日本では2型糖尿病患者に対してインスリンは“相対的適応”だがそれでよいのだろうかと疑問を提示し、インスリンを遅滞なく導入し、計画的なステップアップを含む確実かつ安全な血糖コントロールが重要だと締め括った。

(日経メディカル別冊編集)