金沢医科大学の森本茂人氏

 札幌で開かれた日本糖尿病学会JDS2011)は「大震災からの復興支援」もテーマの1つだった。2日目に開かれた特別セッション「災害時のチーム医療」では、金沢医科大学の森本茂人氏(写真)が 「災害時のチーム医療:高齢者を中心に」と題して講演。日本老年医学会が作成した災害時の高齢者医療ガイドラインとマニュアルについて解説し、「災害関連死を防ぐためにも、ぜひ活用してほしい」と呼びかけた。

 森本氏は冒頭、内閣府がまとめた「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」をもとに、過去の災害の教訓をレビューした。

 その中で森本氏が力をこめたのは、「震災後関連疾患」だった。震災から時間が経つほどに、特に高齢者の間で胃潰瘍、心血管疾患、高血圧や肺炎などが増加していく。これらは「震災後関連疾患」と呼ばれる。死亡例も多く、たとえば阪神・淡路大震災では死者6434人のうち1割が災害関連死で、震災後関連疾患による死亡例も数多く含まれていた。

 「被災された高齢者らに対する医療の現場はとても厳しい状況が続いている」と語る森本氏。震災後関連疾患による死亡を防ぐためにも、日本老年医学会が作成した災害時の高齢者医療ガイドラインとマニュアルも利用してほしいと訴えた。

 日本老年医学会は3月18日、「東北関東大震災対策本部」を立ち上げ対策に乗り出した。3月22日には、学会のホームページに「一般救護者用・災害時高齢者医療マニュアル」と「高齢者災害時医療ガイドライン」を掲載した。実は厚生労働省の長寿科学総合研究事業として、2010年度から「災害時高齢者医療の初期対応と救急搬送基準に関するガイドライン」を作成する研究班が活動を続けていた。メンバーには同学会のメンバーが参加しており、森本氏は研究代表者の立場にあった。

 研究班が検討を重ねてきたマニュアルやガイドラインは試作版であったが、「現在行われている被災地での高齢者災害時医療の一助にしてほしい」(森本氏)と考え、研究班と日本老年医学会の連名で公開することになったという。マニュアルは冊子とし直ちに、日本老年医学会会員所属救護班や日本医師会などの協力を得て被災地に届けられていった。

 一般救護者用としてマニュアルを作成した理由は、「被災地での医療が厳しい現実に直面することを考えると、災害時にあっては、一般の人の力こそ重要と考えた」(森本氏)からだった。

 実際のマニュアルでは、たとえば「糖尿病の悪化に気付くポイント」では、「次のような徴候がある時は糖尿病の悪化を疑い、医療スタッフに連絡してください」と呼びかけ、「小便の回数が増えた」「失禁が増えた」「のどの渇きを訴える」「全身倦怠感がある」「何となく元気がない」など具体的な徴候を挙げている。その上で、「避難所における糖尿病悪化の予防のポイント」を列挙。「規則的に食事をとり、食事に合わせて薬を服用しましょう」「1型糖尿病の場合、基礎インスリンの注射は中止しないようにしましょう」「脱水にならないよう、水分をしっかりとりましょう」「熱があったり食事がとれない時は、こまめに血糖を測りましょう」などと呼びかける内容となっている。

 復旧・復興までの道のりは長く、険しいものになるだろう。今後は、避難所生活から仮設住宅へと生活環境も移り変わっていくが、阪神・淡路大震災では、仮設住宅の入居者がゼロになったのは震災発生から5年後だった。東日本大震災では、避難者は最大48万人にのぼり、阪神・淡路大震災の31万6678人を上回る。「阪神・淡路大震災では1割が災害関連死だった。東日本大震災では過去の教訓を生かし、この災害関連死を極力抑えていく努力を続けなければならない」。これが森本氏の結論だった。

 なお、日本糖尿病学会は、糖尿病患者もまた「災害弱者」であるとし、災害時の糖尿病診療に関するマニュアルを作成することを決めている。

(日経メディカル別冊編集)