社会保険中央総合病院名誉院長の齊藤壽一氏

 肥満傾向がある「糖尿病予備群」に対する継続的な生活習慣改善の指導により、体重の減少はより顕著で、糖尿病の発症予防にも有効であることが、多施設無作為割り付け試験の結果、明らかになった。生活習慣指導による糖尿病発症予防効果は、耐糖能異常がある例やHbA1cの高い例ほど高かった。全国の社会保険病院が参加した前向き試験の結果で、第53回日本糖尿病学会年次学術集会で、社会保険中央総合病院名誉院長の齊藤壽一氏(写真)が発表した。

 いわゆる「糖尿病予備軍」や「境界型糖尿病」と呼ばれる人々に対する生活習慣の改善指導が、糖尿病発症を予防する上で有効なことは国内外の研究で示されているが、我が国での多施設前向き研究による有効性の検証はまだ十分ではない。こうした理由から、齊藤氏らは、肥満傾向のある糖尿病予備軍における生活習慣改善指導が糖尿病発症に予防効果を持つかどうかを、多施設無作為割り付け介入研究によって検証した。

 対象は、全国25都道府県の38の社会保険病院の健診受診者のうち、年齢30〜60歳で、空腹時血糖値が100〜126mg/dL、BMI 24以上の人とした。肥満傾向がある、空腹時血糖値からみた「糖尿病予備軍」とすることができる。ただし、糖尿病と診断された人や、既に食事療法・運動療法を医師の指導のもとで行っている人、各種疾患の既往者および薬剤内服中の人などは除外した。

 この対象者を、一般介入群と頻回介入群の2群に無作為に割り付け、両群に対して、体重の5%減量を目標として、摂取カロリー減少と身体活動量増加を中心とする生活習慣の改善を指導した。介入期間は36カ月間とし、一般介入群(以下、一般群)には0、12、24および36カ月の計4回に生活改善のための面接を行ったが、それ以外は支援せずに自主管理させた。一方、頻回介入群(以下、頻回群)には0、1、3、6、12、18、24、30、36カ月の計9回、生活改善のための面接を行い、その都度、歩数計記録や食事記録などを用いた積極的な介入支援を行った。主評価指標は糖尿病発症とし、空腹時血糖値126mg/dL以上、負荷2時間値200mg/dL以上のいずれかを満たす場合とした。

 試験の参加者は頻回群311例、一般群330例だった。試験終了までの脱落率は頻回群14.2%(44人)、一般群10.9%(36人)であり、両群間に差はなかった。

 12カ月ごとの検査指標の変化をみると、12カ月後にBMI、空腹時血糖、2時間後血糖、HOMA-IRはいずれも頻回群で一般群に比して有意に低下し、アディポネクチンは頻回群が一般群に比して有意に大きい上昇を示した。36カ月時点では、これらの指標のうちBMIの低下とアディポネクチンの上昇が、頻回群で持続していた。

 体重5%減量の達成割合は、36カ月時点で一般群は18%、頻回群は32%であり、頻回群で達成率が有意に高かった(p<0.001)。

 糖尿病の累積罹患率は、一般群は15%(50人)、頻回群11%(35人)だった。ベースラインでの性別、年齢、BMI、空腹時血糖値、負荷後2時間値、糖尿病家族歴に関して調整した後の、一般群に対する頻回群におけるハザード比は0.57(95%信頼区間0.37-0.89)であり、頻回群の方が有意に発症リスクが低かった。

 さらに、開始時の耐糖能の状況別に介入効果を見たところ、試験開始時の負荷2時間値が140〜199mg/dLだった例については、頻回群における調整後ハザード比は0.42であり、空腹時血糖110mg/dL以上の群では0.52、HbA1c 5.6%以上の群では0.25だった。この結果は、同じ糖尿病予備軍の中でも、糖尿病状態により近い患者の方が介入効果が大きかったことを示している。

 以上の成績から、齊藤氏は「肥満傾向がある糖尿病予備群に対する生活習慣改善の指導は、体重の減少と糖尿病の発症予防に有効である。糖尿病予備軍の中でも、耐糖能異常者やHbA1cの高い集団において糖尿病発症予防効果は大きい」と結論づけた。

同程度の体重減少でも、頻回の指導の方が糖尿病発症リスクは低い
 また、国立循環器病研究センター予防検診部の渡邉至氏(写真)は、同じ試験参加者のうち12カ月後の体重データがある620人を対象とした研究で、介入12カ月後の体重減少による糖尿病の新規発症予防効果が頻回群と一般群でいかに異なるかを検証した成績を発表した。

国立循環器病研究センター予防検診部の渡邉至氏

 両群における12カ月後の肥満関連指標の変化をみると、体重は一般群で1.1kg、頻回群で2.5kg減少しており、BMIはそれぞれ0.4、0.9の低下、腹囲はそれぞれ1.3cm、3.1cmの減少で、いずれも頻回群が有意に優れていた(p<0.001)。

 さらに、12カ月後の体重減少と36カ月時点の糖尿病発症リスクの関連を見ると、12カ月後の体重が5%減少した場合の糖尿病発症リスクは一般群0.61、頻回群0.19であった。つまり、5%体重減少すると一般群では糖尿病発症リスクが約40%減少したが、頻回群では約80%したことになる。このように両群ともに有意なリスク低下が認められたが、交互作用の検討による2群間の比較では、両群間に明らかな有意差が認められた(p=0.02)。

 同じく、BMIが1低下したことによる糖尿病発症リスクは一般群0.70に対して頻回群0.32(交互作用のp<0.005)、腹囲5cm減少による糖尿病発症リスクは一般群0.84、頻回群0.46(交互作用のp<0.06)だった。 

 いずれのデータからも、生活習慣の改善によってもたらされた体重減少の度合いが同じでも、頻繁に指導を行った方が将来の糖尿病発症のリスクは低いという興味深い結果が示された。その理由について、渡邉氏は「頻回かつ継続的な支援を受けた患者では、自主管理に任せた場合よりも生活習慣改善への取り組み意識や動機づけが高まり、その結果、生活習慣改善の遵守を持続できたことにより、長期的な糖尿病の発症リスクが低下したのではないか」と分析している。

(日経メディカル別冊編集)