天理よろづ相談所病院内分泌内科の藤田直尚氏

 持効型インスリンアナログ製剤の登場により、従来の経口血糖降下薬に同製剤の1日1回注射法を組み合わせるBOTBasal supported Oral Therapy)が、インスリン導入をより簡便に実施できる療法として糖尿病治療の選択肢に加わった。しかし、どのような症例がBOTの良い適応となり、どの程度の有効性が期待できるのかについては、明らかになっていないことも多い。天理よろづ相談所病院内分泌内科の藤田直尚氏(写真)らは、持効性インスリンアナログ製剤グラルギンの1日1回注射法の導入例を対象に、導入後のHbA1c値の低下率が良好となる条件、導入後のHbA1c値を規定する条件を検討し、その結果を第53回日本糖尿病学会年次学術集会で報告した。

 対象は、インスリン使用歴がなく、同院において2005年5月から2009年4月の期間に、インスリン グラルギン(以下、グラルギン)の1日1回注射法を新規に導入し、6カ月以上外来で診察、採血を行うことができ、導入時のHbA1c値が7.5〜14.5だった53例。HbA1c低下率、糖尿病罹病期間、経口血糖降下薬(OHA)の種類数、BOT導入時のHbA1c値、BOT導入6カ月後のHbA1c値の相関を調べ、導入後HbA1c値の規定因子を重回帰分析にて同定した。

 対象となった53例(男性29例)のBOT導入時年齢は62.9歳、糖尿病罹病期間は12.1年だった。BOT導入時には26例でOHA2〜3剤が併用されており、1剤以上で治療を受けていた47例中、46例にSU薬が投与されていた。

 HbA1c値はBOT導入時には9.3%だったが、導入3カ月後に7.4%に低下し、6カ月後にも同値で推移した。導入時のOHAの種類が少ないほど、HbA1c値の低下率は良好だった。グラルギンの投与量はOHA数による有意差はなく、この結果は、グラルギンの増量によって得られたものではなかった。一方、導入時のOHA数が多いほど糖尿病罹病期間が長く、尿中CPR値も低い傾向がみられた。

 HbA1c値の低下率とBOT導入時の患者背景の相関を検討したところ、導入時のOHA数が多いほど、また糖尿病罹病期間が長いほど、HbA1c値の低下率は小さくなっており(それぞれp=0.027、p<0.001)、OHA数、罹病期間とHbA1c値の低下率の3者間には、有意な相関があることが明らかになった。

 また、BOT導入6カ月後のHbA1c値は、導入時における罹病期間が長いほど、OHA数が多いほど高く(各p=0.001、p=0.002)、HbA1c値の低下率が高いほど、その値は良好だった(p<0.001)。

 さらには、BOT導入時のHbA1c値とHbA1c値の低下率においても、有意な相関が認められた(p=0.001)。

 重回帰分析を用いて、BOT導入から6カ月後のHbA1c値の規定因子を検討したところ、導入時の糖尿病罹病期間とHbA1c値が同定され、両因子を用いてBOT導入後のHbA1c値を予測する重回帰式を求めることができた。

 この重回帰式を用いて、BOT導入後HbA1c値7.0%未満を達成するための条件を求めると、罹病期間5年の患者であれば導入持のHbA1c値は9.6%未満、10年であれば8.7%未満となる。逆にBOT導入時のHbA1c値が9.2%の患者の場合、罹病期間が7年未満であれば7.0%未満を達成できると考えられる。

 以上の検討から藤田氏は、「良好な血糖コントロールを達成するためには、より早期からBOTによるインスリン導入を実施することが必要だ」と述べた。罹病期間が長く、HbA1c値が高くなるにつれて、治療目標を達成しにくくなることから、経口血糖降下薬でコントロール不良の例では、早期にBOTの導入を考慮することが重要だと考えられる。

(日経メディカル別冊編集)