7月1日から施行される糖尿病の新しい診断基準では、ヘモグロビンA1cHbA1c)が補助的な診断項目から正式に診断項目の1つとして取り上げられることとなった。しかし、腎機能低下を伴う糖尿病患者では、貧血やヘモグロビン低下がHbA1c値に影響しうることを念頭に置いておく必要があることが、東京女子医科大学糖尿病センターの馬場園哲也氏らの研究で明らかになった。5月27日から岡山市で開催された第53回日本糖尿病学会で発表した。
 
 糖尿病患者では非糖尿病患者に比べて貧血を合併しやすく、貧血と診断されなくても軽度にヘモグロビン値(Hb値)低下が起こりやすいことが知られている。その背景には糖尿病性腎症の発症によって腎性貧血を来すことがある。貧血は血中のヘモグロビンが低下することであり、糖尿病患者のHbは貧血の合併によって低下している可能性がある。そのため、血糖値が同じ場合であっても、貧血の有無によってHbA1c値が異なる可能性があることになる。

 腎性貧血の病態は糸球体濾過量(GFR)の低下に伴う尿細管間質障害によってエリスロポエチンの産生能が低下することとアルブミン尿蛋白尿)が増加すること。そこで馬場園氏らは、アルブミン尿とGFRが貧血あるいは軽度のヘモグロビンの低下を介してHbA1c値にどれくらい影響を及ぼすか解析を行った。

 対象は同センターを受診している1型あるいは2型成人糖尿病患者1万328例。透析導入例、腎移植後の患者、エリスロポエチン使用中の患者は除外した。女性4460例、男性5868例で、1型糖尿病患者の割合は14.1%、年齢は平均58歳(20〜93歳)だ。

 HbA1c値はJDS値で、貧血は女性12.0g/dL、男性は13.0g/dLとWHOの定義に従った。

 共変量にHbを含めない場合と含めた場合の共分散分析を行い、それぞれのHbA1cの最小自乗平均の差を求めた。共変量は、26項目の臨床パラメーターからHb値に対して有意に影響する因子を重回帰分析によって見いだす方法を採用した。その結果、糖尿病患者のHb値に影響する因子として見いだされたのがeGFRとACR(アルブミン/クレアチニン比)だった。

 解析を行った患者の貧血の頻度は、eGFR(mL/min/1.73m2)別の貧血の合併頻度について、15未満の男性で93.6%(女性96.3%)、15〜29で83.3%(80.7%)、30〜44で49.6%(54.9%)、45〜59で23.4%(24.4%)、60〜74で13.1%(14.6%)、75〜89で7.0%(8.7%)、90〜114で5.6%(7.9%)、115以上で5%(13.6%)だった。

 アルブミン尿(mg/g Cr)別の貧血合併頻度は、5未満の男性で5.5%(女性8.1%)、5〜9で7.5%(10.6%)、10〜29で10.9%(13.1%)、30〜99で13.6%(17.2%)、100〜299で19.3%(26.1%)、300〜999で38.4%(42.7%)、1000〜2999で54.5%(46.4%)、3000以上で89.0%(78.1%)だった。

 eGFR、アルブミン尿別に8グループに分け、それぞれのグループのHbA1cについて非補正幾何平均、Hbを含めない共変量で補正した最小二乗幾何平均、Hbを含めた共変量で補正した最小二乗幾何平均を求めてHbA1c値の差を比較した結果、HbA1c値が0.2%以上低下するのは、女性でアルブミン尿300mg/g Cr以上とeGFRが45mL/min/1.73m2未満、男性でアルブミン尿1000mg/g Cr以上、eGFRが45mL/min/1.73m2未満であることが明らかとなった。HbA1c値が0.4%以上低下するのは女性でアルブミン尿3000mg/g Cr以上、eGFRが30mL/min/1.73m2未満、男性ではeGFRが15mL/min/1.73m2未満が見いだされた。

 これらの結果から馬場園氏は、「アルブミン尿の増加やeGFRの低下を伴う糖尿病患者では貧血あるいはHbの低下がHbA1c値に影響しうる。また、CKD患者において糖尿病を診断する上でHbA1c値の評価は慎重に行う必要がある」と締めくくった。

(日経メディカル別冊編集)