旭川医科大の羽田勝計氏

 アンジオテンシンII受容体拮抗薬ARB)には糖尿病性腎症に対する腎保護作用が知られているが、この作用は腎機能の低下速度などによって違いがあることが明らかとなった。5月27日から岡山市で開催されている第53回日本糖尿病学会で、旭川医科大学内科学教授の羽田勝計氏が発表した。

 この結果は、日本および香港の、顕性腎症を伴うハイリスク2型糖尿病患者566例を対象にARBオルメサルタン投与群とプラセボ群に割り付けて、腎症進展抑制効果や心血管イベント抑制効果を比較したORIENT試験(平均追跡期間3.2年)のサブ解析から明らかになったものだ。

 ORIENT試験では、副次評価項目である脳心血管複合イベントはハザード比0.64(p=0.039)でオルメサルタン群が有意に発症率を減少させており、尿蛋白の変化率もプラセボ群が増加していたのに対してオルメサルタン群は有意に減少。腎機能の低下速度(血清Cr値の逆数[1/Cr]の推移で評価)についてもオルメサルタン投与群が有意に減少していた。

 しかし、主要評価項目である、血清クレアチニン値(血清Cr値)の2倍化、末期腎不全(血清Cr値5.0mg/dL以上、透析、腎移植)、死亡からなる腎複合イベントについては、オルメサルタン群とプラセボ群で差がみられていなかった。

 羽田氏らは、オルメサルタン投与により腎機能低下速度や尿蛋白が減少したにもかかわらず腎複合エンドポイントで有意差がみられなかった背景には、腎機能が急速に低下してしまうような症例ではARBによる腎保護効果が得られにくいことがあるのではないかと推測し、腎機能低下速度別にサブ解析を行った。

 ORIENT試験の全対象者の「1/Crの傾き」(dL/mg/年)をグラフにプロットし、1/Crの傾きの中央値以上を示した患者を腎機能低下速度が遅い集団、中央値以下を示した患者を低下速度が速い集団として解析を行った結果、低下速度が速い集団ではオルメサルタン群とプラセボ群の間で腎機能低下速度に差がなく、低下速度が遅い集団ではオルメサルタン群が有意に腎機能低下速度を抑制していたことが明らかとなった。また、今回のORIENT試験で腎複合イベントを起こした症例の9割は腎機能低下速度が速い集団に含まれていることも明らかとなった。

 さらに羽田氏らは腎機能低下速度が速い集団を特徴づけるため、全対象者の推定糸球体濾過量(eGFR)の傾き(eGFRの低下速度)を指標として解析を行った。全対象者(566例)の1年あたりのeGFRの低下量の中央値は−5.2mL/min/1.73m2/年であったため、この中央値より低下量が多い(=腎機能低下速度が速い)集団をRapid Decliner(RD集団、平均値−9.3mL/min/1.73m2/年)、低下量が少ない(=腎機能低下速度が遅い)集団をSlow Decliner(SD集団、平均値−2.4mL/min/1.73m2/年)と定義し、試験登録時の患者背景を比較した。

 その結果、RD集団とSD集団の間で性別や試験登録時のHbA1c値、拡張期血圧や血清Cr値、ACE阻害薬を併用している患者の割合(ともに約7割)に有意な差はみられなかったが、RD集団は平均57.8歳でSD集団60.6歳に比べて若く、収縮期血圧がSD集団139.2mmHgに対してRD集団143.3mmHgと高く、尿蛋白もSD集団1.23g/gCrに対してRD集団3.30g/gCrと有意に高かった。

 こうして腎機能の低下速度のリスク因子として収縮期血圧と尿蛋白が見いだされたことから、ORIENT試験の全症例の収縮期血圧や尿蛋白の上位3分の1に当たる値として収縮期血圧150mmHg、尿蛋白3.06g/gCrをカットオフ値として設定し、収縮期血圧150mmHg以上あるいは尿蛋白3.06g/gCr以上の患者を高リスクグループ、収縮期血圧150mmHg未満かつ尿蛋白3.06g/gCr未満の患者を低リスクグループと定義した。そして各グループのオルメサルタン投与の有無による腎複合エンドポイント発症率の違いを評価した。

 その結果、高リスクグループはオルメサルタン群とプラセボ群の間で腎複合イベントの発症率に差はみられなかったが、低リスクグループではハザード比0.61(p=0.048)でオルメサルタン群が有意に腎複合イベント発症率を低下させていることが明らかとなった。

 羽田氏は、「腎機能低下速度に注目した解析から、登録時の収縮期血圧が150mmHg未満かつ尿蛋白が3.06g/gCr未満であればオルメサルタン群はプラセボ群に比べて腎複合エンドポイントの発症率を有意に低下させた」とまとめ、「ARBによる腎保護効果を得るためには早期から治療を開始する必要がある」と締めくくった。

(日経メディカル別冊)