UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)は2型糖尿病に対する厳格な血糖管理と高血圧治療の有用性を証明した大規模臨床試験として知られる。本試験は1977〜97年の20年間にわたり英国で実施されたが、試験終了後も追跡調査が行われている。第52回日本糖尿病学会年次学術集会ではUKPDSを主導したRury R. Holman氏(英Diabetes Trials Unit Oxford Center for Diabetes)が特別講演を行い、最近まとめられた追跡調査の結果を報告。厳格な血糖管理の合併症予防効果は試験終了後も長期間持続することを明らかにした。

UKPDSを主導したRury R. Holman氏

 UKPDSの対象は4209例の2型糖尿病患者である。被験者を食事療法による通常の血糖管理または基礎インスリン製剤、SU薬、メトホルミンのいずれかを用いる厳格な血糖管理に無作為割付し、合併症に及ぼす治療の影響を観察した。メトホルミンに関しては、高度な肥満が認められた患者を対象に食事療法との比較が行われた。また、対象患者のうち1148例は高血圧を合併していたが、これを2群に分け、150/85mmHg未満への降圧をめざす厳格な治療と180/105mmHg未満を目標とする通常の治療の効果が比較された。

 食事療法群の観察期間中のHbA1cは7.9%であったが、薬物を使用した強化治療群では7.0%と低かった。強化治療によって、糖尿病関連イベント、細小血管障害、網膜症、アルブミン尿のリスクはそれぞれ12%、25%、21%、33%、有意に低下した。心筋梗塞発症リスクも強化治療により16%低下したが、有意ではなかった。なおメトホルミン投与群に限ってみると、心筋梗塞のリスクは39%、全原因死亡のリスクは36%低下し、ともに有意であった。

 高血圧に対する強化治療の有用性も示された。観察期間における強化治療群の血圧は通常治療群に比べ10/5mmHg低く、それに伴って糖尿病関連イベント、脳卒中、細小血管障害、網膜症増悪、視力低下のリスクが有意に低下した。

 本試験の結果は以上のとおりだが、UKPDSでは試験終了後も生存患者3277例を対象に1998〜2007年の10年間、予後の追跡調査が行われた。強化治療の有用性が明らかになったため、試験終了後は食事療法群の被験者に対しても薬物による厳格な血糖管理が勧告された。その結果、強化治療群と食事療法群のHbA1cの差は追跡期間中に消失した。にもかかわらず、両群の合併症リスクには明らかな差が認められた。

 インスリン/SU薬投与群と食事療法群を比較した結果をみると、8.5年の追跡期間における糖尿病関連イベント、細小血管障害、心筋梗塞、全原因死亡のリスクはそれぞれ9%、24%、15%、13%、いずれもインスリン/SU薬投与群で有意に低かった。またメトホルミン投与群における糖尿病関連イベント、心筋梗塞、全原因死亡のリスクはそれぞれ21%、33%、27%、食事療法群に比べ有意に低下した。

 UKPDSの被験者はすべて新規に2型糖尿病と診断された患者である。これは罹病期間の短い患者が多かったことを示唆するが、Holman氏は「追跡研究の結果は2型糖尿病に対する早期からの治療が20年以上の予後に強い影響を及ぼす可能性が大きい」と述べた。

 UKPDSの後も、厳格な血糖管理の有用性を検証する大規模試験がいくつか行われているが、それらの成績をみると、細小血管障害のリスクは低下させるものの、冠動脈疾患や脳卒中などの大血管障害に対する抑制効果は必ずしも著明とはいえない。Holman氏は最後にこの点についても言及し、2型糖尿病に合併する高血圧、脂質異常なども視野に入れた包括的なリスク管理の重要性を強調するとともに、「どのような糖尿病治療薬が心血管系に対する保護効果を示すのか、今後詳細に検討する必要がある」と述べた。
(小林圭=医学ライター)