国際医療福祉大学薬学部の池田俊也氏

 2型糖尿病患者の長期予後医療費を推測するためのシミュレーションモデルが、国際医療福祉大学薬学部の池田俊也氏(写真)らによって開発されたことが、第52回日本糖尿病学会年次学術集会のポスターセッションにおいて発表された。個々の患者で、ある治療を行った場合の臨床効果、合併症の発症抑制などを総合的に評価し、推定される長期予後や生涯医療費などのスケールから、最適な治療法を選び出すことが可能になるという。

 2型糖尿病患者に対する生活習慣の是正や薬物療法による厳格な血糖コントロールが合併症の進展を阻止し、予後を改善することは、多くの臨床試験や疫学研究によって証明されてきた。しかし、実地医療における患者背景や検査値などが、臨床試験や疫学研究の対象症例と一致するとは限らないため、個々の患者に対して、どのような治療を行えばよりよい長期予後を得ることができるのかを予測することは容易ではない。

 そこで池田氏らは、UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)で示された合併症発症に関する回帰モデルなどを元に、個々の患者の長期予後と医療費を推計するわが国独自のシミュレーションモデルを開発した。

 UKPDSのデータを用いたのは、国内に十分な疫学データがないためだが、日本と欧米では患者背景や医療環境に様々な違いがあることは考慮しなければならない。そのため、糖尿病患者における虚血性心疾患、脳卒中などの大血管障害の発症に関してはJDC(Japanese Diabetes Complication) Studyのデータを参照し、解析を試みた。さらに、QOLスコアを日本人向けに換算し直し、医療費に関しては日本の薬価や診療報酬を当てはめるなどの工夫を加えている。

 今回は、シミュレーションモデルを用いた例として、グリメピリドとメトホルミンの併用療法と、グリメピリドとピオグリタゾンの併用療法を比較した結果が報告された。グリメピリド+メトホルミンはグリメピリド+ピオグリタゾンに比べ、生命予後をQOLで調整した質調整生存年(QOLYs)は同等以上、生涯医療費は男性患者の場合、約70万円安くなると予想された。女性患者の場合は、グリメピリド+メトホルミンを選択すると骨折リスクが低下するため、生涯医療費が男性よりもさらに低く抑えられると推測された。このシミュレーションモデルでは、例えば、薬価の高い糖尿病治療薬でも、それを使うことによって長期的には血液透析期間を短くでき、結果的に生涯の医療費が安くなるといった予想も可能になるという。

 池田氏は「このシミュレーションモデルにより、費用対効果も含め、複数の治療薬の長所、短所を包括的に評価できるため、糖尿病治療のガイドライン検討の際にも有用と考えられる」と語った。
(高橋義彦=医学ライター)