理事長の門脇孝氏(東京大学大学院教授)

 米国糖尿病学会ADA)やWHOが新たな糖尿病診断基準を検討している中、日本糖尿病学会も、わが国の新しい糖尿病診断基準の策定へ向けた動きを加速させている。5月21日、第52回年次集会の総会で、理事長の門脇孝氏(東京大学大学院教授)ならびに学会の糖尿病診断基準検討委員会委員長を務める清野裕氏(関西電力病院院長)が、世界的な新基準作りの動きと策定の立脚点、さらに議論すべき課題についてそれぞれ解説した。

 門脇氏(写真)は、ADAとWHOの動きを紹介。それぞれが、診断基準にHbA1cを取り入れる方向で検討している点を強調した。ADAはすでに、診断基準におけるHbA1cの活用について専門家委員会(David Nathan委員長)を設置し、2009年3月末に報告書の第一次案を作成した。一方、WHOは2009年3月末に、ジュネーブで糖尿病の診断基準についての専門家会議を開催、診断基準にHbA1cを取り入れるための議論をスタートさせている。

 門脇氏の解説によると、HbA1cを診断基準に取り入れる根拠は、(1)糖尿病の基本的概念である持続性高血糖は、空腹時血糖値や食後2時間血糖値では代表できず、現行の指標の中ではHbA1cが最も適切である、(2)HbA1cの測定は、空腹時採血や負荷試験を必要としない、(3)現行の治療目標はHbA1cに基づいており、診断でもHbA1cを使った方が診断と治療の間に連続性が認められる−−などがある。

 今後については、ADAは、HbA1c6.5%以上を糖尿病の診断基準とする方向にあり、6月5日に開幕する第69回のADA学術集会で公表される可能性があるという。

 またWHOは、血糖値による診断基準とHbA1cによる診断基準を併用する方向にあり、今年の10月18日から開催される予定の第20回世界糖尿病会議で公表される可能性があるとした。

 こうした世界の動きに対して日本の対応も検討すべきとの判断から、学会として糖尿病診断基準検討委員会を設置、4月26日に第1回委員会の開催にいたっている。

糖尿病診断基準検討委員会委員長を務める清野裕氏(関西電力病院院長)

 委員会の委員長として登壇した清野氏はまず、日本の現在の診断基準は、補助的な位置づけではあるが、世界に先駆けてHbA1cを指標の1つとして盛り込むなど、斬新的なものであるとの認識を示した。また、糖尿病における成因と病態の概念を整理した上での診断基準は、臨床の現場で利用しやすいよう配慮されたものと評価した。

 その上でまず、(1)エビデンスに基づいた科学的妥当性、(2)現行診断基準との連続性、(3)臨床現場での実行可能性、(4)海外の診断基準との整合性(疫学的比較など)−−の4点が、新基準に求められる要件とした。

 また、ADAやWHOがHbA1cを診断基準に盛り込む方向であるため、(1)糖尿病合併症と血糖値・HbA1c値との関連の検証、特に日本における疫学的エビデンス、(2)HbA1c値の国内的・国際的標準化の検証、(3)ADA・WHO新診断基準との整合性の検討、(4)現行診断基準からの円滑な移行方法−−などが検討すべき事項であると解いた。

 最後に清野氏は、新基準の策定には学会会員の協力が欠かせないとし、協力を要請し講演を締めくくった。