今学会会長を務める滋賀医科大学附属病院病院長の柏木厚典氏

 第52回日本糖尿病学会・年次学術集会初日の5月21日、今学会会長を務める滋賀医科大学附属病院病院長の柏木厚典氏(写真)による会長講演が行われた。登壇した柏木氏はまず「新型インフルエンザへの感染が話題となる中、多くの方にご来場いただき、感謝する」と述べた。

 柏木氏は、わが国の糖尿病患者で網膜症や腎症、脳心血管障害といった血管合併症が高頻度にみられることを指摘し、「微小血管障害の進展には慢性高血糖が深く関与している。微小血管病変は可逆性で進展を阻止できることが明らかになっており、できるだけ早期から厳格な血糖管理が必要とのエビデンスが世界で蓄積されている」と話した。重度の網膜症や腎症を有する糖尿病患者では、心血管イベントを発症しやすいことも既に明らかになっている。

 だが「2006年滋賀県糖尿病実態調査の結果をみると、HbA1c値8%以上の患者のうち、インスリン治療を行っているのは24%にとどまり、厳格な血糖管理が達成できているとは言い難い。未受診者や治療中断者の問題もある。合併症についても詳しい調査は行われていない」と柏木氏。

 そこで柏木氏が、日常診療でより効率よく治療目標を達成できるようになるのではないかと注目するのが、大阪大学、順天堂大学、旭川医科大学、理化学研究所などで行っている糖尿病感受性遺伝子および血管合併症感受性遺伝子の同定を目指す研究だ。危険性の高い患者の遺伝子マーカーが同定できれば、より個々の患者に適した治療が可能になると期待される。既に候補となる遺伝子は複数見つかっており、遺伝子多型により動脈硬化の進展が予測できるか解析が進んでいる。

 最後に柏木氏は「厳格な血糖管理には、低血糖や体重増加といった問題も残されている。長期間かかる臨床試験が必要であり、難しいことは分かっているが、高血糖が微小血管障害をもたらす分子機構に基づいた、全く新たな治療薬の開発が望まれる」と述べ、講演を締めくくった。