福島県立医科大学心臓血管外科学の高瀬信弥氏

 地震津波原発事故と複合災害・事故に襲われた福島県。原発事故はいまだ進行中であり、復旧・復興の道筋はなかなか見通せない。福島県立医科大学心臓血管外科学の高瀬信弥氏は、3月17日まで横浜で開催されていた第77回日本循環器学会(JCS2013)のシンポジウム「大震災と心血管病」に登壇。同大の高度医療緊急支援チームが避難所を巡回して行った深部静脈血栓症(DVT)の調査結果をもとに、「環境保健評価が低い避難所ほどDVT発生率が高い」という新たな知見を報告した。

 過去の大震災の疫学調査から、静脈血栓症が遷延することで肺塞栓症や血栓後症候群、奇異性塞栓症や心血管イベントなど二次的健康被害が続発することが明らかになっていた。DVTに関する調査は、こうした健康危機を未然に防ぐ目的で行われた。

 調査期間は、2011年3月28日から5月11日。対象は福島県在住の避難者。調査対象となった避難所は、のべ79施設。調査対象は、のべ2217人だった。対象の背景は、男性815人(不明2人)で、年齢は15〜97歳、平均年齢は66.1±15.0歳だった。

 主要な調査結果は前回の日本循環器学会で報告している。それによると、DVTリスクが確認されたのは945人(リスク保持率42.6%)。携帯型超音波診断装置による下肢静脈エコーで、血栓が検出されたのは210人で、血栓陽性率は9.47%だった。そのうち、大量血栓が検出され緊急搬送された人は11人に達した。幸い肺塞栓症はゼロだった。

 今回、高瀬氏は、DVTリスクに影響する要因についての解析結果を中心に新たな知見を報告した。まず、DVTリスクが確認された「DVT+群」とDVTリスクが確認されなかった「DVT−群」に分けて、背景因子に違いがあるのかどうか調べた。その結果、年齢(69.5±0.91歳 対 65.8±15.2歳、P=0.0006)、避難所の滞在日数(30.3±13.2日 対 26.9±13.2日、P=0.0005)、津波が原因の避難の割合(48.1% 対 32.8%、P<0.0001)が、DVT+群で有意に多いことが分かった。原発事故が原因の避難の割合は、DVT−群の方が有意に多かった(51.9% 対 67.2%、P<0.0001)。

 DVTのリスク因子をみると、すべてのリスク因子の割合は、DVT−群で41.3%だったのに対し、DVT+群は53.8%と有意に多かった(P=0.0007)。 特にDVT+群では下肢浮腫が11.4%に認められ、DVT−群の5.9%より有意に多いという結果だった(P=0.0043)。また、座位の生活が長い人の割合も、DVT+群で有意に多かった。

 多重回帰分析の結果、年齢、津波による避難、避難所の滞在期間、下肢浮腫が、有意な背景因子として残った。

 避難所の環境がDVTの発生に影響していると考えられたことから、環境保健評価(CDC、Environmental Health Assessment form for Shelters)を行ったところ、避難所地区によって結果が大きく異なることが明らかになった。福島県の会津地区、中通地区、浜通地区別に避難所の環境保健評価をしたところ、会津地区が41.4±11.7点と最も高く、中通地区が30.4±9.9点、浜通地区が20.6±6.5点と続いた。

 そこで、この3地区別にDVT発生率をみたところ、環境保健評価の低かった浜通地区の避難所ほど、DVT発生率が有意に高いことが明らかになった。会津地区が5.4±4.0%、中通地区が11.1±2.1%だったのに対し、浜通地区は16.9±2.2%と高率だった(P=0.034)。

 浜通の避難所の評価が低かった理由について、高瀬氏は、「上下水道がまったく使えない状況下で、パンとお茶だけという食事が3、4週間続いたことが大きく影響したと考えられる」と考察した。また、今後に向けては、DVT発生を抑えるための医療介入はこれまで通り続ける一方、避難所の質を高める努力をすべきだと指摘した。たとえば、欧米の避難所に比べて見劣りする睡眠環境を向上させることは必須であると強調した。首都直下型地震あるいは東海・東南海・南海地震などに対する防災対策には、こうした避難所の質を高める対策も盛り込んでいくべきであろう。

 高瀬氏は、「住民には過度のストレスがかかった状態が続いており、心血管イベントにつながりうる静脈血栓症のリスクが依然として高い」とし、継続的な医療介入の必要性を訴え、発表を締めくくった。