福島県立医科大学腎臓高血圧・糖尿病内分泌代謝内科学講座の渡辺毅氏

 慢性腎臓病CKD)患者の心血管イベントと全死因死亡率については、eGFR値が15mL/分/1.73m2未満となると有意に上昇することが報告された。国内17施設から登録したCKD患者を対象とし、併存疾患や治療内容、臨床転帰を前向きに観察したCKD-JAC studyの中間報告から示された。福島県立医科大学腎臓高血圧・糖尿病内分泌代謝内科学講座の渡辺毅氏が、3月15日から横浜で開催中の第77回日本循環器学会(JCS2013)で発表した。

 CKDは末期腎臓病のリスク因子であると同時に、心血管イベントのリスク因子でもある。日本におけるCKDの有病率は、1300万〜1900万人で、成人人口の約11〜18%であると推定されている。ただし、これまで日本のCKD疫学研究は久山町や宮城県の艮陵(ごんりょう)研究など一部の限られた地域で行われてきた。日本人のCKD患者でも欧米のような頻度で循環器疾患が起きているのか、また日本の中での地域差はないのか、といったことも十分には分かっていない。そこで今回渡辺氏らは、CKD-JAC studyの中間データをまとめ報告した。

 20〜75歳の日本人患者で、eGFR値が10〜59mL/分/1.73m2だった2975例を対象とした。多発性嚢胞腎、HIV感染、癌、肝硬変、臓器被提供者などは除外した。2012年11月の時点で1466例が死亡や転院、透析に入ったなどの理由で追跡打ち切りとしたため、現在まで追跡中できているのは1509例となった。フォローアップは6カ月ごとに行うこととしている。研究期間は4年で、現在も進行中。今回は、2012年11月までのデータをまとめ、腎臓と心血管イベントの発生についての中間解析を発表した。

 転帰は、全死因死亡、心血管イベント、透析導入とした。eGFR値によって4群に層別化し、45mL/分/1.73m2以上のStage G3a群(306例)、30mL/分/1.73m2以上45mL/分/1.73m2未満のStage G3b群(1051例)、15mL/分/1.73m2以上30mL/分/1.73m2未満のStage G4群(1148例)、15mL/分/1.73m2未満のStage G5群(470例)とした。

 患者背景は、年齢がStage G3a群で54.6歳、Stage G3b群で60.0歳、Stage G4群で61.5歳、Stage G5群で62.1歳と、eGFR値が低いほど高かった(P for Trend<0.0001)。心血管イベント既往率、尿蛋白、収縮期血圧、降圧薬内服率、赤血球造血刺激薬使用率などは、eGFR値が低い群において高値となった(いずれもP for Trend<0.0001)。反対に、BMI、血清アルブミン濃度、血清カルシウム濃度、ヘモグロビン濃度は、eGFR値が低い群において低値だった(いずれもP for Trend<0.0001)。

 各群を糖尿病例と非糖尿病例で分けて背景を検討すると、心血管疾患の既往率がいずれの群でも糖尿病例において2〜3倍程度高かった。また、非糖尿病例ではStageが上がるごとに心血管疾患の既往率が上昇する有意な傾向が見られた(P for trend=0.001)。一方、糖尿病例ではかろうじて有意な傾向を認めた程度だった(P for trend=0.046)。

 全死因死亡は、90例だった。このうち、致命的な心血管イベントが発生したのは5例のみ(脳卒中4例、うっ血性心不全1例)だった。致命的でない心血管イベントは170例で発生しており、うち145例が何らかの心血管イベントを再発していた。イベントを起こす例は多くはないものの、イベントが起きた例では再発することが多いということが示された。

 心血管イベント発生回数の分布を見ると、非糖尿病患者の約95%は1度も心血管イベントを起こさなかったのに対し、糖尿病患者では86%程度にとどまった。糖尿病患者の方が心血管イベントを再発しやすく、非糖尿病患者では再発は13例だったが、糖尿病患者では43例が再発していた。

 stage別に、全死因を対象としたカプランマイヤー曲線を描いたところ、Stageが高い群ほど有意に高まった(Log-rank検定によるP=0.0058)。糖尿病の有無で分けてみると、非糖尿病例では同様にStageが高い群ほど有意に死亡率が高まったが(Log-rank検定によるP=0.0031)、糖尿病例では有意差を認めなかった(Log-rank検定によるP=0.2526)。

 また、年齢、性別、心血管疾患、糖尿病、喫煙状況、BMI、収縮期血圧、ヘモグロビン濃度、尿蛋白、血清カルシウム濃度、血清リン濃度などの交絡因子を補正し、Stage G3bをハザード比算出の基準としてStageごとに全死因死亡率のハザード比をCox比例ハザードモデルで算出した。その結果、有意差を認めたのはStage G5のみだった。非糖尿病例と糖尿病例に分けても結果は同様で、非糖尿病例のStage G5群と糖尿病例のStage G5群間には有意差がなかった(P=0.5750)。渡辺氏は、「これは従来の結果と異なるものだが、施設もしくは対象者の違いではないか」と考察した。

 心血管疾患発生と透析開始を合わせたエンドポイント発現率でカプランマイヤー曲線を描くと、Stageが高い群ほど有意に高まった(Log-rank検定によるP<0.0001)。しかし、糖尿病例と非糖尿病例では有意な差は認めなかった。

 CKD-JAC studyのCKD Stage別の年間死亡率、心血管発症率は、米国から報告されたコホート研究結果に比べて極めて低く、宮城県内の病院で行われた艮陵研究の結果よりもやや低かった。また、米国における腎臓専門施設の研究であるCRIC研究の基礎データは、日本の両研究に比べ、心筋梗塞や慢性心不全など心血管疾患既往率が明らかに高かった。糖尿病罹患率も米国は日本よりもやや高い。最も異なるのはBMIで、日本のデータはどちらも23.5kg/m2なのに対し、米国のデータは32.1kg/m2と大きく上回っていた。また、他の2研究ではアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)またはアンジオテンシン2受容体拮抗薬(ARB)の使用率が6〜7割弱だったが、CKD-JAC studyでは9割となっており、「ここがデータの違いを考える上でポイントとなる可能性もある」(渡辺氏)と語った。

 これらの結果から渡辺氏は、「一般住民レベルの研究結果とは異なり、日本の腎臓専門病院17施設で治療されているCKD患者の心血管イベント発症率と全死亡率はCKD Stage G3a〜4にかけては大きな上昇はなく、Stage G5で初めて有意差が認められた。また、発生頻度は他のコホート研究、特に米国の研究データに比べれば極めて低かった。糖尿病の関与については、総死亡率、イベント発生率ともに上昇傾向はあるものの統計学的な有意差は認められなかった。既往については有意差が認められるため、研究期間が短い可能性を示している可能性がある」とまとめた。

 最後に渡辺氏は、「CKD-JAC研究の各参加施設におけるデータ入力は2013年3月末に完了するため、終了後のデータを再度解析する。今回は透析が開始されるとドロップアウトの扱いになり、追跡されていないが、今後は透析患者も含めた解析を行えるよう工夫したい。また、今後は生活習慣などの交絡因子も含めた解析を行いたい。CKD-JAC研究の解析結果は、CKD患者の予後における人種差や地域差を明らかにするためにも、CKD-JAC研究における分析の結果を他の国や地域のコホート研究結果と比較していきたい」と展望を語った。