岩手医科大学内科学講座心血管・腎・内分泌内科分野の田中文隆氏

 LDL-C/HDL-C比は、LDL-C値に限らず急性冠症候群ACS)発症リスクと関連することが示された。平均5.6年の追跡を行った岩手県北地域コホート研究の結果から示された。岩手医科大学内科学講座心血管・腎・内分泌内科分野の田中文隆氏が、3月15日から17日まで横浜で開催された第77回日本循環器学会(JCS2013)で発表した。

 LDL-C値は冠動脈疾患(CHD)のリスクとして重要な因子であることが知られているが、CHD罹患者の約半数はLDL-C値は正常範囲内であることが報告されている。総コレステロール(TC)、またはLDL-CとHDLコレステロール(HDL-C)との比は、LDL-CやHDL-Cを単独で指標とした場合よりもCHD予測マーカーとして優れていることが近年報告されている。そこで田中氏らは、岩手県北地域住民を対象に、LDLコレステロール(LDL-C)とHDLコレステロール(HDL-C)の比などの脂質指標とACSとの関連について解析した。

 岩手県北地域コホート研究は、2002〜2004年に岩手県北・沿岸の17市町村(現12市町村)が実施する健康診査を受診した人を対象とした前向きコホート研究。17市町村の人口は23万3307人で、受診者3万1318人のうち、18歳〜95歳の2万6469人(男性9161人、年齢62.1歳)が参加に同意した(同意率84.5%)。死亡、脳卒中、心筋梗塞、心不全罹患、介護認定をエンドポイントとして、2009まで平均5.6年の追跡調査を実施した。

 参加者に対し、登録時に生活関連の問診(喫煙や飲酒習慣など)、尿検査(潜血、蛋白、アルブミンなど)、血液検査(血球算定や生化学、脳性ナトリウム利尿ポリペプチド、高感度CRPなどのバイオマーカーなど)、血流データ、心電図、身体計測、血圧測定、栄養調査を行い、データベース化した。

 死亡と転出は住民基本台帳を使用して追跡した。死因については、人口動態調査死亡小票を受けて死因を同定した。脳卒中については、岩手県下で1991年から行っている岩手県地域脳卒中登録の情報を基にして、研究グループがそれぞれの診療録を確認し、統一した診断基準となるようにした。心筋梗塞、心不全、突然死についても、岩手県北心疾患発症登録の情報を基に同様の確認を行い、基準に合致した症例を2002年から毎年採録し、このうちコホート研究参加者のデータをデータベース化した。

 田中氏は、同研究について、「健診受診者というセレクションバイアスはかかるものの、一地域住民を対象とした循環器疾患のコホート研究としては2万6469人を対象とした大規模なもので、疾患発症の危険因子について解析するには十分な数だ。同意率も高く、追跡率は5年間で99.97%と高い。さらに、エンドポイントは死亡、脳卒中、心筋梗塞だけでなく、心不全罹患についても調査した」と特徴付けた。

 データベース登録者の背景は、男性が9161人で、年齢64歳、BMI23.9kg/m2、脂質代謝異常(脂質低下薬の内服またはLDL-C値が140mg/dL以上だった場合と定義)罹患率が20.1%、高血圧は46.0%、糖尿病は8.0%、心血管疾患既往歴は5.5%だった。女性は1万7308人で、年齢61歳、BMI24.0kg/m2、脂質代謝異常罹患率が30.9%、高血圧は38.6%、糖尿病は4.7%、CHD既往歴は2.5%だった。

 平均5.6年間追跡した結果、総死亡が1050人(4.0%)で、急性心筋梗塞(AMI)が97人(0.4%)、突然死が98人(0.4%)、うっ血性心不全が108人(0.4%)、脳卒中が741人(2.8%)だった。

 次に、コホート研究への参加者のうち、心血管疾患既往例、脂質治療薬内服例、高度腎機能障害例(eGFRが30mL/min/1.73m2未満)を除外した2万2519例を対象とし、LDL-C、HDL-C、TC/HDL-C比、LDL-C/HDL-C比などの脂質指標と、AMI、突然死との関連を血清LDL-C値別に比較解析した。

 LDL-C値が140mg/dL以上を高LDL-C血症、120〜139mg/dLを境界域高LDL-C血症と定義されることから、正常LDL-C値は120mg/dL未満と定義した。対象者をLDL-C値120mg/dL未満のLDL-C正常群(1万1333例、男性率42.5%、62.6歳)と120mg/dL以上のLDL-C高値群(1万1186例、男性率27.7%、63.0歳)の2群に分類した。その結果、AMIは77例(0.3%)、突然死は76例(0.3%)発生した。

 各脂質指標をそれぞれ中央値で分類し、AMI、突然死発症との関連をカプランマイヤー法で解析したところ、LDL-C正常群、LDL-C高値群ともに、LDL-C値とHDL-C値はAMI・突然死のリスクとの有意な関連は認められなかった。一方、LDL-C正常群、LDL-C高値群共に、LDL-C/HDL-C比の高値および標準偏差が1標準偏差増加することはAMI、突然死リスクの上昇と有意に関連した。LDL-C正常群では、TC/HDL比が1標準偏差増加することがAMI、突然死リスクの上昇と関連した(いずれもP<0.05)。

 これらの結果から田中氏は、「LDL-C/HDL-C比は、LDL-C値が高値である例に限らず、正常値である例でもACSリスクと関連するため、LDL-C値に加えてLDL-C/HDL-C比を評価することが、冠動脈疾患の高リスク例の特定に有用であることが示唆された」と結論した。