大阪医療センター循環器内科の谷口達典氏

 腹部のインピーダンス測定によって、急性心不全症候群(AHFS)に伴う腹部の体液貯留を適切に評価できることが新たに示された。これまで胸部については胸部インピーダンス測定の有用性が指摘されていたが、腹部は体液の大きな貯留部位であるにもかかわらず、評価方法についてほとんど報告がなかった。大阪医療センター循環器内科の谷口達典氏らの研究成果で、福岡で3月18日まで開催された第76回日本循環器学会(JCS2012)で発表された。

 AHFSではうっ血と体液貯留がみられる。うっ血症状については、肺動脈楔入圧(PCWP)や中心静脈圧(CVP)、心エコー検査による左室拡張末期径および下大静脈径の測定、BNP測定などにより評価を行う。

 体液貯留については、体重増加や浮腫の確認のほか、生体インピーダンス測定による評価法がある。肺水腫などと関連が強い胸部の体液貯留については、胸部インピーダンスによる評価に関して多くの研究がなされているが、腹部の体液貯留については、評価手法が十分に確立されていなかった。そこで谷口氏らは、腹部インピーダンス測定がAHFS患者の腹部体液貯留の非侵襲的な診断ツールとなりうるかを検証した。

 対象はAHFSと診断された患者50例(男性31例、平均年齢72歳)。BMI≧25以上の肥満者が15例(30%)だったほか、主な合併症は、収縮期血圧160mmHg以上の高血圧が10例(20%)、135mEq/mL未満の低ナトリウム血症合併例が7例(14%)、心房細動22例(44%)、心房頻拍1例(2%)などだった。

 対象者に対し、入院時と退院時に、生理学的検査と心エコー検査に加え、胸部インピーダンスによる胸部体液容量(TFC)と腹部インピーダンスによる腹部体液容量(AFC)を評価した。

 測定の結果、入院時のTFCとAFCは有意な正の相関を示した(r=0.586、P<0.0001)。また、入院時のBNPは、TFCとは有意な相関を示さなかったが、AFCとは有意な正の相関を示した(r=0.336、P=0.0165)。

 入院治療により、血清BNPの平均値は入院時の632pg/mLから退院時の217pg/mLへと約58%有意に改善した(P<0.0001)。TFCとAFCも改善し、TFCは44kOhm-1から36kOhm-1に、AFCは75kOhm-1から56kOhm-1にそれぞれ有意に低下した(いずれもP<0.0001)。なお、TFCとAFCの変化率と、BNPの変化率との間には有意な相関を認めなかった。

 体重も、入院時の60.1kgから54.5kgに有意に改善した(P<0.0001)。TFCでは有意な相関を示さなかったが、AFCの変化率と体重の変化率は有意な相関を示した(r=0.610、P=0.0001)。

 多変量解析により入院期間短縮に対する寄与因子を解析したところ、BNP、全身体液容量(TFC+AFC)、収縮期血圧が独立な因子として抽出された。

 これらの検討から、AHFSで観察されるうっ血と体液貯留は、BNP、生体インピーダンス、収縮期血圧の3要素で判定できると推察された。収縮期血圧は心血管機能、BNPはうっ血、生体インピーダンスは体液貯留のマーカーになると考えられた。

 谷口氏はこれらの結果を踏まえ、「生体インピーダンス測定は、患者の体位の調整や電極の配置、機器の調整など煩雑な作業もあるが、検査値の精度は高く一貫性があり、移動性、経済性にも優れ、非侵襲的でもある。今回評価した腹部インピーダンスを含め、AHFS患者の体液貯留の評価には有用といえるのではないか」と総括した。

(日経メディカル別冊編集)