東京大学心臓外科の齋藤綾氏

 大動脈食道瘻(aortoesophageal fistula:AEF)に対しては、胸部大動脈ステントグラフト(thoracic endovascular aortic repair:TEVAR)で病状を安定化させてから、食道切除術を行い、最終的にホモグラフト移植術と大網充填術を併せて行うという治療戦略が望ましいのではないか――。東京大学心臓外科齋藤綾氏は、3月18日まで開催されていた第76回日本循環器学会(JCS2012)のシンポジウム「大動脈疾患に対する低侵襲治療の現状と課題」に登壇し、自らの見解を発表した。

 AEFは治療困難な疾患であり、救命率が非常に低い。内視鏡やCTなどで診断できるが、吐血などにより搬送されてきた場合には、診断と治療を同時に進めなくてはならず、厳しい状況で対応しなければならない。原疾患としては、食道内の外傷、大動脈瘤の食道浸潤、食道癌の浸潤などがある。一方、開腹手術やTEVARに伴うAEFである2次性AEFについては、発症率は明確になっていないものの、AEF全体の1〜5%ほどであると報告されている。さらに、これまでの報告では、術後30日以内に33〜100%が死亡している。

 AEFに対する治療は主に3通りある。通常は人工血管置換術を用いるが、他に凍結保存同種血管組織(ホモグラフト)移植術とTEVARがある。ホモグラフトは心停止ドナーから提供される組織を用いるため、数に限りがあるが、感染に強いという特徴を持つ。TEVARは簡便で低侵襲な手技として注目されており、2000年当初からいろいろな疾患に適用されていた。AEFに対してTEVARを使用する際に問題となるのは、消化管系に直接的に接するため、グラフトが感染を起こした場合に、対応が非常に困難な点だ。

 今回、齋藤氏は、2000年8月から2011年2月に東京大学の組織バンク(UTTB)から提供されたホモグラフトの移植を受けたAEF患者11人(女性2人、手術時の平均年齢は65±13歳、原発性5例、2次性6例)を後ろ向きに検討した。

 その結果、原発性AEFの5例は全て、大動脈破裂を受けて治療されたケースだった。このうち2例がTEVARを受けたが、1例はグラフト感染を起こしたため、最終的に開腹手術でホモグラフトを用いて救命された。もう1例はタイプ気離┘鵐疋蝓璽(ステントグラフトと留置位置における血管壁の間を通じた瘤内への血液漏出)が残存したため、開腹手術に移行し救命された。一方、TEVARを行わなかった3例は開腹手術を行い、3例中2例が生存に至っている。

 2次性AEFの6例中2例は開腹手術後の、残りの4例はTEVAR施行後の2次性AEFだった。6例中5例は食道抜去した後、ホモグラフト置換術という経過をたどり、4例で生存が得られた。

 院内死亡は原発性、2次性を合わせて3例で、そのうち2例は術後30日以内に死亡した。死因は多臓器不全1例、出血2例。遠隔期の死亡は計2例で、1例は誤嚥性肺炎、もう1例はフォローアップから外れた患者の死亡報告を受けたという。
 
 齋藤氏はAEFの治療について、「TEVARはとりあえずの救命にはとても有用だ。ただし、TEVARだけでは十分な治療ではない可能性を、最初から念頭に置いた治療戦略を組むべきだろう。これまでの11例中8例で大網充填術を行ったが、これが大変有効だった。最終的にホモグラフトと大網充填術を併せて行う治療が鍵になるのではないか」と語った。

(日経メディカル別冊編集)