国立循環器病研究センター心臓血管内科の黒澤毅文氏

 国立循環器病研究センターのデータベースをもとにした新たな研究により、急性非代償性心不全(ADHF)患者が急性肺水腫(FPE:flash pulmonary edema)を併発すると、重症度は高くなるものの、生命予後の悪化にはつながらない可能性が示された。同センター心臓血管内科の黒澤毅文氏らが、福岡で3月18日まで開催された第76回日本循環器学会(JCS2012)で発表した。

 FPEは心臓の拡張障害を起点に、動脈の硬直化の亢進を介して灌流が低下し、急性の血管内圧の上昇や虚血、あるいは急性の血液量増大などが起きることで発症する。肺クリアランスや左室機能の異常、末梢血管拡張などが観察される。

 FPEはADHF患者の3%に認められ、致死的な肺うっ血を進展させるなど、患者の脅威となると考えられている。しかし、ADHF患者のFPEの病態や予後に関する検討はこれまで十分に行われていなかった。

 黒澤氏らは、国立循環器病研究センターに入院したADHF患者の経過を前向きに集積しているnCASCADE(National CardiovAScular Center Acute DEcompensated heart failure)の登録症例のうち、2006年7月から2010年6月までに登録された757例を対象に、2011年7月までの経過を解析した。
 
 解析では、発症後6時間以内に入院した患者59例をFPE群、発症後6時間以上経過してからの入院あるいは発症時間不明の患者698例を非FPE群と定義した。FPE群ではすべて、非侵襲的陽圧人工呼吸(NIPPV)あるいは気管挿管が施行されていた。

 患者背景では、年齢、女性の割合、糖尿病および慢性腎障害(CKD)の合併頻度には両群に差はなかった。しかし、高血圧と冠動脈疾患の合併頻度は、FPE群が82.7%と43.1%で非FPE群の69.2%と28.1%に比べていずれも有意に高かった(どちらもP<0.05)。一方、心房細動の有病率は、FPE群が15.5%で非FPE群の37.9%に比べて有意に低かった(P<0.05)。

 また、起坐呼吸、呼吸数、四肢の冷感については、FPE群(87.7%、30.2/分、28.1%)が非FPE群(69.5%、24.4/分、15.9%)に比べて高く(いずれもP<0.05)、より重症のうっ血をきたしていることが示唆された。一方、脛骨前の水腫、肝腫、治療後の体重減は、FPE群(47.5%、20.5%、39.5%)が非FPE群(56.9%、44.5%、60.5%)に比べて有意に低値であり(P<0.05、P<0.01、P<0.005)、FPEでは非FPEに比べ、血流量の過負荷が少ないことが推察された。

 収縮期血圧、心拍、PaCO2は、FRE群(173mmHg、110/分、46.9Torr)が非FRE群(139mmHg、93/分、37.6Torr)に対していずれも有意に高く(いずれもP<0.001)、動脈血pHは、FRE群が7.29で非FRE群の7.4に比べて有意に低値だった(P<0.001)。これらの数値により、FRE群の重症度がより高いことが示唆された。

 FRE群の12.3%が来院時死亡となり、非FRE群の5.21%に比べて有意に多かった(P<0.05)。また、急性期に実施した処置のうち、硝酸薬投与、NIPPV、気道挿管を行った比率は、FRE群ではそれぞれ83.1%、72.9%、32.2%だったのに対して、非FRE群では36.9%、14.2%、5.01%で、いずれも有意に多かった(いずれもP<0.0001)。

 院内死亡率はFPE群1.7%、非FPE群5%で、両群間に有意差は認めなかった。また両群の1000日間の生存率をKaplan-Meier法で解析しても、有意差はなかった。

 黒澤氏は、「今回の検討では、ADHF患者の7.8%がFPEを発症していた。FPE患者は非FPE患者に比べ、高血圧、冠動脈疾患、肺うっ血がより多く、特に肺うっ血の重症度は高かった。しかし、院内死亡率と長期の生命予後については、FPE患者と非FPE患者の間に差はなかった」と結論した。

(日経メディカル別冊編集)