大阪大学心臓血管外科・先進治療医学の澤芳樹氏

 重症の大動脈弁狭窄症AS)患者に対する経カテーテル大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)は、大動脈弁置換術AVR)のハイリスクな患者や手術不能例への治療として有用である可能性が示された。TAVIの安全性と有効性を検討した国内初の多施設臨床試験「PREVAIL JAPAN Trial」の成果で、大阪大学心臓血管外科・先進治療医学澤芳樹氏が研究グループを代表して、3月16日から18日まで福岡で開催されていた第76回日本循環器学会(JCS2012)で報告した。

 ASは治療しないと予後が悪いことが知られているが、AS症例の3〜5割は合併症や手術のリスクが高いなどの理由から未治療であることが、世界的に報告されている。TAVIは、人工心肺を用いずに、侵襲性の低いカテーテル治療で根治的な弁留置を行う治療法のことで、AVRの実施がハイリスクな患者や手術不能な重度のAS患者への新たな治療選択肢として注目されている。

 重症AS患者を対象にしたTAVIの海外の臨床試験結果は、既に報告されている。手術不能な重症AS患者においては、TAVIはAVRと比べ、総死亡率を有意に改善した。一方、AVRハイリスク患者においては、総死亡率はAVRと同等(非劣性)だった。

 今回、澤氏らは、エドワーズライフサイエンス社製の経カテーテル人工心臓弁「THV-9300」の安全性と有効性を検討するため、大阪大学と榊原記念病院(東京都府中市)、倉敷中央病院(岡山県倉敷市)の3施設で臨床試験(試験デザイン;オープン、非比較試験)を行った。対象は、NYHA分類II以上で安全に手術することが困難な重症AS患者64人。大動脈二尖弁や非石灰化大動脈弁、左室機能不全(左室駆出率[LVEF]が20%未満)などは除外した。

 主要評価項目は、術後6カ月における大動脈弁面積と患者による自己評価式アンケートから算出したSASスコアに基づくNYHA分類の改善。NYHA分類については、SASスコアによる評価のほか、医師による評価も併せて行い、副次評価項目に設定した。その他の副次評価項目は、LVEF、QOL、有害事象などとした。

 カテーテルの挿入は、経大腿アプローチ(TF)と経心尖アプローチ(TA)で行った。TFが実施困難な症例についてはTAとしたため、TF群(37例)よりもTA群(27例)の方が状態の悪い患者が多かった。弁サイズは、7割強の症例が23mmを使用し、残りは26mmを選択した。

 試験の評価は、全体(64人)のほか、TF群(37人)とTA群(27人)についても検討した。

 患者背景をみると、全体では、年齢は84.3歳±6.1、男性の割合は34.4%、身長は149.57±8.27cm、体重は48.76±8.78kg、STSスコアは8.96±4.48、手術死亡率を予測するためのEUROスコアは15.54±8.06だった。STSスコアとEUROスコアについては、TF群の方がTA群より有意に低かった。

 NYHA分類については、全体でSASによる評価IIが14.1%、IIIもしくはIVが85.9%だった。一方、医師による評価では、IIが56.3%、IIIもしくはIVが43.8%だった。両者の評価に大きな違いがみられた理由として、澤氏は、SASスコアの質問が80歳以上の高齢者向けでない内容で、最適な指標でなかった可能性を指摘した。TF群とTA群の比較では、著しい差は見られなかった。なお、肺高血圧症の割合は、TF群の方がTA群より有意に少なかった。

 試験の結果、デバイスの留置成功率は91.9%と高率だった。一方、術後24時間以内に1例が弁輪破裂により死亡。術後7日以内には、5例で無症候性脳卒中所見がCT画像で確認された。術後1カ月までに5例が死亡し、1例は大脳卒中を発症した。また7例で、新たにペースメーカー植込み手術が行われた。

 主要評価項目とした大動脈弁面積は、TF群において、手術前が0.53±0.15cm2だったのに対し、術後6カ月には1.51±0.25cm2と、有意に増加した(P<0.001)。

 術後6カ月後に大動脈弁面積が1.0cm2以上増加し、SASスコアによるNYHA分類が1段階以上改善した症例は、TF群が38.2%、TA群が45.8%だった。また、術後6カ月後に大動脈弁面積が1.0cm2以上増加し、医師によるNYHA分類が1段階以上改善した症例はそれぞれ94.1%、79.2%だった。

 総死亡率については、術後30日ではTF群が5.4%、TA群が11.1%、術後6カ月では順に5.4%、18.5%だった。

 これらの結果を踏まえ澤氏は、「本試験は日本初のTAVIの臨床試験で術者の経験が限られていたにもかかわらず、30日生存率は92.2%となり、海外の主要な試験と同等の結果が得られた」と結論。その上で「TAVIは、AVRハイリスク・手術不能な重症AS患者への治療オプションとして有効であることが示唆された」と語った。

(日経メディカル別冊編集)