岩手県立中央病院の佐竹洋之氏

 2011年の東日本大震災直後、被災地周辺では心不全の増加が顕著で、初発例やEF保持型の心不全が多かったことが明らかになった。岩手県立中央病院佐竹洋之氏らが自施設の状況をもとに、震災後の心不全の発症数、死亡数、病態の特徴などを報告した。3月16日から18日まで福岡で開催された第76回日本循環器学会(JCS2012)で発表された。

 地震が発生した2011年3月11日から31日までの3週間に佐竹氏らが自施設で対応した心血管疾患は、脳卒中53例、心不全30例、急性心筋梗塞16例、狭心症7例、不整脈2例、肺塞栓症1例だった。2010年の同じ期間には、脳卒中54例、心不全16例、急性心筋梗塞7例、狭心症10例、不整脈3例、肺塞栓症0例であり、震災後に心不全と急性心筋梗塞が多いことが注目された。

 2009〜2011年の3月11日前後3週間の心不全発症者数を比較したところ、2009年は3月11日以前が17例、以降が12例、2010年は同じく13例、16例だったのに対し、2011年は16例、30例で、震災後には例年に比べて顕著に増加していた。そこで、2010年同時期の発症者16例を非被災者群として、被災した心不全患者30例(被災者群)と比較した。

 その結果、年齢、男性の割合、BMI、糖尿病や脂質異常症の合併頻度、eGFRには両群間に差はなかった。高血圧の合併頻度では非被災者群37.5%に対し、被災者群では53.3%と高い傾向が認められた。心不全の原因疾患とされる高血圧性心疾患、虚血性心疾患、弁膜症、心筋症などの合併頻度は両群で同等だった。

 一方、心房細動合併症例は非被災者群の4例(25.0%)に対し、被災者群では17例(56.7%)と有意に多く(P=0.04)、収縮期血圧も非被災者群122.6mmHgに対し、被災者群では149.9mmHgと被災者群で有意に高かった(P=0.01)。初発例は、非被災者群の2例(12.5%)に対し、被災者群では14例(47%)と有意に多かった(P=0.02)。死亡例は非被災者群の1例(6.3%)に対して被災者群は6例(20%)で、有意差はなかったが高い傾向を認めた。

 入院時に測定した血清BNPは非被災者群の797pg/dLに比べ、被災者群は1138pg/dLと高い傾向を示した。心エコー検査値では、左室拡張期末径が非被災者群54.5±3.9mmに対し、被災者群では47.8±7.1mmと有意に低値だった(P=0.01)。左室収縮期末径には有意な差はみられなかった。

 左室駆出率(EF)は非被災者群45.6%、被災者群45.2%と、両群に差はなかった。しかし、EF≧45%を駆出率が保持された心不全(HFpEF:Heart Failure with preserved EF)、EF<45%を駆出率が低下した心不全(HFrEF:Heart failure with reduced ejection fraction)とすると、HFpEFの比率は非被災者群で44%、被災者群では58%で、被災者群では駆出率を保持している患者が多い傾向が示された。

 佐竹氏はこれらの結果から、「被災した心不全患者では初発例が多く、心房細動や高血圧を合併している比率が高かったほか、EF保持型の心不全が多い傾向がみられた」とし、「大災害時には、精神的ストレスにより、心不全の発症や心不全による死亡が増加する可能性がある」と注意喚起した。

(日経メディカル別冊編集)