福島県立医科大学心臓血管外科学の高瀬信弥氏

 地震津波原発事故と複合災害・事故に襲われた福島県。原発事故はいまだ進行中であり、復旧・復興の道筋はなかなか見通せないでいる。福島県立医科大学心臓血管外科学の高瀬信弥氏は、3月18日まで福岡で開催されていた第76回日本循環器学会(JCS2012)のトピックス「震災時の心血管イベントへの対応」に登壇。同大の高度医療緊急支援チームが避難所を巡回して行った深部静脈血栓症DVT)の調査結果をもとに、「住民には過度のストレスがかかった状態が続いており、心血管イベントにつながりうる静脈血栓症のリスクが依然として高い」とし、継続的な医療介入の必要性を訴えた。

 過去の大震災の疫学調査から、静脈血栓症が遷延することで肺塞栓症や血栓後症候群、奇異性塞栓症や心血管イベントなど二次的健康被害が続発することが明らかになっていた。DVTに関する調査は、こうした健康危機を未然に防ぐ目的で行われた。

 調査期間は、2011年3月28日から5月11日。対象は福島県在住の避難者。調査対象となった避難所は、のべ79施設。調査対象は、のべ2217人だった。対象の背景は、男性815人(不明2人)で、年齢は15〜97歳、平均年齢は66.1±15.0歳だった。

 調査の結果、DVTリスクが確認されたのは945人だった(リスク保持率42.6%)。携帯型超音波診断装置による下肢静脈エコーで、血栓が検出されたのは210人で、血栓陽性率は9.47%だった。そのうち、大量血栓が検出され緊急搬送された人は11人に達した。幸い肺塞栓症はゼロだった。

 チームは予防策として、弾性ストッキングを配付し、装着の目的を説明する一方、実際の装着方法を指導した。調査期間中に855人に配付、配付率は38.6%だった。

 避難所でのVTE (静脈血栓症)/肺血栓塞栓症(PE)の発生は、「津波が原因での避難」「75歳以上の高齢者」「長期避難所滞在者」「下肢の腫脹」のいずれかが当てはまる被災者に有意に多く認められた。また、長時間座位はリスク因子である傾向が認められた。しかし、車中泊はリスク因子とは認められず、下肢の外傷も同様だった。

 高瀬氏はこれらの結果を踏まえ、「津波による避難者にVTEが多い」と指摘。また、東京電力福島第一原子力発電所の事故によって避難した人にもVTEの発生が目立ったことから、「原発事故が間接的な要因になった可能性はある」とした。

 過去の大震災の教訓をもとに、避難所ではVTEの予防啓蒙活動はかなり実施されていたという。しかし、「それでもVTEは必ず発生する」と強調した高瀬氏は、地震を契機とした避難でも7〜10%に、津波の被害からの避難した場合は10〜30%程度のVTE発生があると予想すべきであるとした。

 今回の調査では、避難所の設備環境がVTE発生に関与することも明らかになった。この点について高瀬氏は、「震災早期からの医療介入が必要であり、血栓症の発見と避難所環境改善のアドバイスが欠かせない」とした。

 最後に高瀬氏は、福島県民には過度のストレスがかかった状態が続いており、静脈血栓症のリスクは依然として高いとの認識を示し、長期にわたって医療介入する必要性を強調した。

(日経メディカル別冊編集)