神戸大学の塩谷英之氏

 厳格な降圧治療を求められる糖尿病患者は、低血圧のリスクにさいなまれていることが多い。その解決の糸口として、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)のミグリトールが食後の低血圧を是正する可能性が示唆された。神戸大学の塩谷英之氏らが、3月18日まで福岡で開催された第76回日本循環器学会(JCS2012)で報告した。

 わが国の高血圧治療ガイドラインにおいて、糖尿病合併高血圧患者では、高血圧単独の患者よりも厳格な降圧目標値が設定されている。しかし、糖尿病患者は健常者と異なり、血糖上昇に伴ってインスリン濃度が上昇したときに血管が拡張したまま心拍が上がらず、血管収縮性も変化せず、結果として収縮期血圧や中心血圧が低下する傾向がある。そのため、降圧治療を受けている糖尿病患者では食事の直後に低血圧をきたしやすい。

 塩谷氏らは、糖尿病患者の低血圧が食後に好発することに着目し、食後高血糖改善薬として知られるα-GIが、食後の血圧にも好影響を与える可能性について検討した。

 対象はボランティアの健常者17人と2型糖尿病患者17人。試験開始時に食事負荷試験を全員に実施し、試験開始時、食後60分、同120分に、心拍数、血圧、AI(Augmentation Index)、血糖値、血清インスリン値、HDLコレステロール、LDLコレステロール、トリグリセリドを測定した。その後、糖尿病患者にはミグリトールによる治療を開始し、4カ月後に再度、食事負荷試験と検査を実施した。

 両群の患者背景については、年齢(57.4歳 対 52.3歳)、BMI(25.7kg/m2対22.0kg/m2)で糖尿病群が有意に高かった(P=0.041、P=0.001)。収縮期(上腕)血圧、収縮期後方血圧、推定中心血圧は、糖尿病群(138.2mmHg、127.9mmHg、143.4mmHg)が健常者群(125.9mmHg、115.3mmHg、129.5mmHg)に比べて有意に高かった(それぞれP=0.026、P=0.019、P=0.028)。しかし、拡張期血圧は糖尿病群(85.5mmHg)と健常群(81.9mmHg)に有意差はみられなかった。

 試験開始時の食事負荷試験において、糖尿病群では食直前に比べ、食後60分に急峻かつ有意な血糖の上昇が観察され(P<0.01)、120分後も有意に高かった(P<0.01)。一方、健常群では、食後60分に食直前に比べて血糖の有意な上昇を認めたが(P<0.01)、食後120分にはほぼ食直前に近い値に戻った。

 血清インスリンは、両群ともに食後60分に有意な上昇を認めたが(P<0.01、P<0.01)、食後120分では、健常群で著明な低下が示されたのに対し、糖尿病群では有意な上昇が維持され、両群間にも有意差を認めた(P<0.05)。

 心拍数は、健常群では食後60分および120分で有意な上昇を認めたが(P<0.01、P<0.01)、その値はいずれも糖尿病群より低値で推移し、糖尿病群では有意な変化のないまま食直前の値に近い高値で推移した。AIは両群ともに食後60分に有意に低下し(P<0.01、P<0.01)、食後120分にはほぼ食直前の値に戻った。数値そのものは糖尿病群が健常群に比べ、常に高値で推移した。

 収縮期の上腕血圧と中心血圧は、健常群では食直前の値に対していずれも有意な変化を認めなかったが、糖尿病群では食後60分にいずれの血圧値も有意な低下を示し(P<0.01、P<0.01)、中心血圧は食後120分にも有意に低下していた(P<0.01)。
 
 糖尿病群に対してミグリトールによる治療を開始して4カ月後、食前の収縮期血圧(130mmHg)、拡張期血圧(82mmHg)、収縮期後方血圧(120mmHg)、推定中心血圧(135mmHg)はいずれも、試験開始時に比べて有意に改善した(P=0.014、P=0.002、P=0.014、P=0.014)。

 血糖と血清インスリンは試験開始時に比べ、食後60分値、同120分値のいずれも有意に改善した(P=0.01、P=0.01、P=0.01、P=0.01)。さらに、上腕と中心の収縮期血圧も食事負荷後の変動が消失し、食後60分、同120分のいずれも食事開始時の値が維持された。

 塩谷氏は以上の結果を踏まえ、「糖尿病患者に観察された収縮期の上腕血圧と中心血圧の食後の低下は、ミグリトール投与により是正された。ミグリトールは糖尿病患者における食後低血圧のリスクの改善に寄与すると期待される」と述べた。

(日経メディカル別冊編集)