岐阜県立多治見病院循環器内科の稲垣尚彦氏

 上行大動脈に解離が及んでいないスタンフォードB型大動脈解離は、厳格な降圧療法を中心とした保存的治療が第一選択となる。本疾患で緊急入院し退院できた患者を対象に、その予後と患者背景因子との関連を検討したところ、予後良好に関連する独立した因子として、アンジオテンシンII受容体拮抗薬ARB)の投与とCTによる偽腔の血栓化所見が同定された。3月18日まで福岡で開催されていた第76回日本循環器学会(JCS2012)で、岐阜県立多治見病院循環器内科の稲垣尚彦氏らが発表した。

 同病院では2001年10月から2010年3月までに、急性大動脈解離で142人が緊急入院した。142人中94人がスタンフォードB型で、この中から院内死亡および緊急手術実施例を除外し、退院でき経過観察となった87人(男性61人、平均年齢65.3歳)を対象に、予後と患者背景因子との関連を調べた。

 予後については経過観察中に、(1)大動脈破裂による死亡、(2)外科的治療の実施、(3)解離部の最大血管短径の5mm以上の拡大――が確認された場合を予後不良と定義し、このようなイベントが発生しなかった場合を予後良好と定義した。

 平均19.5カ月間の経過観察中に、大動脈破裂による死亡が6例、手術実施11例、最大血管短径の5mm以上の拡大が14例発生したため、予後不良群は31例、予後良好群は56例となった。

 両群の患者背景因子を比較したところ、平均年齢、性差、体格指数(BMI)、高血圧・脂質異常症・糖尿病・冠動脈疾患それぞれの合併率、入院時および退院時の血圧、急性期の胸痛のパターンなどに群間差は見られなかった。

 また心タンポナーデや大動脈弁閉鎖不全、脳卒中、うっ血性心不全、急性腎不全、下肢虚血など、大動脈解離急性期に発生した合併症の発生率も両群で同等だった。

 緊急入院の退院時に投与されていた主な薬物は、β遮断薬(予後良好群:80.3% 対 予後不良群:87.1%、以下同様)、Ca拮抗薬(78.6% 対 67.7%)、ACE阻害薬(14.3% 対 9.7%)、ARB(87.5% 対 58.1%)、スタチン(32.1% 対 22.6%)などで、ARBの投与率のみが予後良好群で有意に高率だった。

 緊急入院時のCT所見では、真腔の圧迫、偽腔径、偽腔真腔比、解離部の最大血管径が予後不良群で、また偽腔の血栓化は予後良好群で、それぞれ有意に高率ないし高値だった。

 これら群間差を認めた因子について、Cox比例ハザードモデルにより多変量解析を行ったところ、ARBの投与(ハザード比:0.215、P=0.002)とCTによる偽腔の血栓化所見(同:0.248、P=0.009)が、予後良好に関連する独立した因子として同定された。

 さらにKaplan-Meier法により、予後不良と定義した複合イベントの回避率をARB投与・非投与の2群に分けて比較したところ、ARB投与群の方が有意に低率だった(P=0.048)。

 ARBがどのような機序で慢性期大動脈解離の進展を抑制するか、その詳細はまだ明らかではない。これまでの基礎的な研究から、直接的な降圧作用に加えて、レニン・アンジオテンシン系の抑制による血管リモデリングの進展抑制や抗炎症作用などが考えられている。

 稲垣氏は「今回の検討では、退院時の血圧に群間差は見られなかった。しっかり降圧することが慢性期治療の基本で、多くの場合は降圧薬を併用することになるが、十分な降圧を得た場合にはARBに若干の利益があると推察される」と話している。

(日経メディカル別冊編集)