鹿児島大学循環器・呼吸器・代謝内科学の宮田昌明氏

 メタボリックシンドロームを合併した高血圧患者に対し、バルサルタンによる厳格な降圧治療を行うと、レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬以外で治療した症例と比べ、血中PAI-1値が有意に低下することが示された。これは鹿児島大学を中心に21施設で実施した「KACT-MetS研究」から見いだされた結果で、鹿児島大学循環器・呼吸器・代謝内科学の宮田昌明氏らが、3月18日まで福岡で開催されていた第76回日本循環器学会(JCS2012)で報告した。

 KACT-MetS研究は、メタボリックシンドロームを合併する高血圧患者を対象に、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)バルサルタンまたは非RAS阻害薬で降圧治療を行った場合に治療効果に違いがみられるかを調べた研究。対象は、2006年6月〜2008年12月に登録した189症例。バルサルタン治療群と非RAS阻害薬群の2群に無作為に割り付け、1年間の厳格な降圧治療による治療効果を比較した。バルサルタン群は97例、非RAS阻害薬群は92例で、最終的に解析対象となった症例はそれぞれ79例、71例だった。

 患者の選択基準は、未治療またはARBやACE阻害薬以外の降圧薬で治療中の高血圧患者で、いずれも収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上、ウエスト周囲径が男性85cm以上、女性90cm以上、さらに、高トリグリセライド血症、低HDL血症、糖尿病のいずれかを治療中の患者とした(3つの疾患の未治療例はトリグリセライド150mg/dL以上かつ、またはHDLコレステロール40mg/dL未満、もしくは空腹時血糖値110mg/dL以上)。

 治療方法に関しては、未治療患者の場合、バルサルタン群ではバルサルタン80mgから治療を開始。バルサルタンを160mgまで増量しても目標降圧値に達しない場合はCa拮抗薬や少量の利尿薬を併用した。非RAS阻害薬群ではCa拮抗薬、利尿薬、β遮断薬やα遮断薬を通常量から投与開始し、目標降圧値に達しない場合には増量もしくは併用投与した。

 既治療患者の場合、バルサルタン群では既治療薬にバルサルタン80mgを追加、または既治療薬をバルサルタン160mgに切り替えた。バルサルタン160mgでも目標降圧値に達しない場合はCa拮抗薬や少量の利尿薬を併用した。非RAS阻害薬群では、既治療薬を増量投与し、目標降圧値に達しない場合にはRAS阻害薬以外の降圧薬を追加投与した。

 降圧目標値は、高齢者(65歳以上)が140/90mmHg未満、若年・中年者が130/85mmHg未満、糖尿病・腎機能障害患者は130/80mmHg未満に設定。治療開始1カ月後、3カ月後に目標降圧値の達成状況を確認し、達成していない場合は治療薬を増量または追加することとした。

 主要評価項目は、血圧コントロール度、アディポネクチンとPAI-1の変化。PAI-1は、線溶系を抑制するプラスミノーゲン活性化抑制因子で、動脈硬化症では高値を示す。副次評価項目はHbA1c、HOMA-IR、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターロイキン-6(IL-6)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、左室重量係数(LVMI)、左室拡張能の指標であるE/A比とした。

 患者背景は心拍数のみ有意差がみられ、バルサルタン群が74±12拍/分、非RAS阻害薬群が71±9拍/分だった(P=0.04)。高血圧未治療患者は両群ともに約4割を占め、合併症や降圧薬の種類に有意差は認められなかった。

 主要評価項目の血圧値の推移をみると、バルサルタン群では試験開始時153±15/86±15mmHgだったのが、1年後138±16/77±12mmHgとなり、非RAS阻害薬群では150±14/82±15mmHgから137±15/76±10mmHgとなった。2群間で降圧度に差はみられなかった。

 アディポネクチンの平均変化量に関しては、バルサルタン群が0.3±0.4μg/mL、非RAS阻害薬群が0.9±0.4μg/mLとなり、両群間に有意差は認められなかった(P=0.22)。宮田氏はこの結果について、試験開始時にアディポネクチン値が既に低くなかったことが影響したのではないかと指摘した。試験開始時のアディポネクチン値は、バルサルタン群8.1±5.0μg/mL、非RAS阻害薬群10.1±6.6μg/mLだった。

 一方、PAI-1の平均変化量では、バルサルタン群が−3.7±3.2ng/mLと開始時に比べてPAI-1の値が低下したのに対し、非RAS阻害薬群が5.8±3.3ng/mLと開始時よりも増加しており、バルサルタン群は非RAS阻害薬に比べ、有意にPAI-1の値が減少した(P=0.04)。

 副次評価項目のHbA1c、HOMA-IR、TNF-α、IL-6、BNP、LVMI、E/A比はすべて、2群間に有意差はみられなかった。

 PAI-1とメタボリックシンドローム関連因子の変化量で単回帰分析したところ、非RAS阻害薬群において、PAI-1はBMI値、トリグリセライド値、HbA1c値と有意な正の相関がみられた。一方、バルサルタン群では内因性NO阻害物質のADMA値のみ、PAI-1と有意な正の相関があった。

 これまでの研究で、メタボリックシンドロームはPAI-1を過剰発現させることが知られており、PAI-1はインスリンシグナル低下や脂肪細胞の分化を抑制するほか、肥満を助長し、関連糖脂質障害を引き起こすことが報告されている。

 こうした結果から、宮田氏は「メタボリックシンドローム合併高血圧患者に対し厳格な降圧治療を行うと、降圧度に差はなかったものの、ARBバルサルタンは非RAS阻害薬に比べ、血中PAI-1を低下させることが示唆された」と締めくくった。

(日経メディカル別冊編集)